魔法文房具2つめの魔法
今ではすっかり見なくなった文房具屋さん。
見た目は廃墟にも近いこの文房具屋はそれでもひっそり営業中。
「毎度ありがとうございます」
「こちらこそ。うちの子、この店のじゃないと嫌だって言うんで」
「まあ、うちは魔法つきですからねぇ」
文房具でもことさらに性能が良いものがある。
それは技術ではない。
「魔法」がかかっているからだ。
この店では古くから「魔法文房具」を売っていた。
魔法文房具の購買層はほとんどが小学生。
「魔法あり」というのがステータスになるんだろう。
「お子様も安心の魔法を2つかけています。
1つは、誰かを傷つけたり自分を傷つけない魔法。
もう1つは……」
「お母さん! 早く帰らないとヤッチャマンはじまるよ!」
「あ、すみません。では、また今度」
親子はあわただしく店を後にした。
次にやってきたのは、店にあまり現れないタイプの人間。
「コニチワ、わたし、あなたの文房具興味ありマス」
「ようこそ、魔法文房具やさんへ。何かお探しですか?」
「オーダメイド作ってほシイ。できルカ?」
たどたどしい日本で、客が外国人だと容易にわかった。
けれどそれで対応を変えることはない。
店主は静かに話を聞くことに。
「はい、どういった文房具と魔法ですか?」
「世界で一番インクでやすいペン作て欲しい。
失くしても手元に自動で戻ってくる魔法ツケて。
誤字脱字も自動修正ネ。それにそれに……」
客はなおも様々な機能をつけたした。
「わかりました。でもそれを作るとなると
新しい魔法の開発が必要になります。時間をいただけますか?」
「もちろんネ。時間いくらカカルいい。金はいくらでも出すヨ」
店主は客のムチャぶりにも近い注文にこたえられるべく
魔法の開発にいそしむことにした。
店番に立つよりも、店の奥で魔法開発に没頭する時間が多くなった。
寝る間も惜しんで研究を続けた結果、
客の求めていた「ボールペン」を作ることができた。
「時間はかかったが、満足のいく逸品だ。さっそく連絡しましょう」
しかし、渡された電話番号には何度連絡しても出ない。
魔法は得意なものの、機械は苦手なので連絡が取れない。
「まあ、依頼されて商品を忘れるなんてことはない。
きっとひょっこり戻ってくるに違いないねぇ」
そう信じて店主は待った。
店主は人が良すぎた。
店の魔法ハサミがごっそりなくなっていることに気づいたのは
常連の子供たちの方が先だった。
「ねぇ、なんでハサミないの?」
「え? あれれ? おかしいなぁ、最新の魔法入れてたのに」
文房具にはじめて2つ魔法を入れた新作。
それが棚からごっそりと消えていた。
「ま、まさか……」
※ ※ ※
一方、まんまと魔法ハサミを持ち出しに成功した
客……もとい、窃盗団は大笑いしていた。
「ハハハハ!! やぱり、日本人おおマヌケな!
あんな注文なんて最初からどうでもよかタ!」
多すぎる注文に、店の奥に引っ込む店主。
そのスキをついて最新の魔法文房具を持ち出した。
素直で真面目な国民性のスキをついた作戦だった。
「この魔法ハサミを本土で売れば大儲けネ! アハハハ!!」
魔法はすべて日本語で作られる。
だからこそ持ち出す必要があった。
「さて、さそくこのハサミ使てみるか。
本土で売る前に魔法動作チェク必要ネ」
窃盗団はさっそくハサミの刃に自分の指をあててみた。
すると、歯の表面に魔法のコーティングが発生する。
「オオ!! これなら傷つかなイ! これはすごイ!!」
感動した窃盗団は次の魔法を試した。
といっても、やり方はわからない。
なにが変化してるかもわからない。
「どうナッテル? これ魔法出てるカ?
おかしい。魔法2つある聞いタ」
窃盗団がハサミの第2の魔法を探しているうちに、
目の前には明かりランプの車が集まってきた。
「動くな!! 魔法窃盗の現行犯で逮捕する!!」
※ ※ ※
窃盗団が逮捕されたころ、
魔法文房具やさんにはまた親子が来ていた。
「先日のハサミ、うちの子も気に入っていました。
安全なので私も安心です」
「それはよかった。励みになります」
「それに、2つ目の魔法も親としては本当にありがたいです。
うちのこ、ケータイ持たせても連絡しないもので」
「ああ、ハサミの現在位置を常に教えてくれる魔法ですね。
やっぱり小学生は危ないですから。
あの魔法も入れておいてよかったです、私としても」
魔法文房具屋の店主は満足そうに笑った。
まもなく、窃盗団の持ち出したハサミが届くころだ。
作品名:魔法文房具2つめの魔法 作家名:かなりえずき