小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

半透明な才能スカウトマン!

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
『直木賞を4連続して獲得した天才小説家の
 正道氏が惜しまれながら静かに息を引き取りました』

テレビのニュースでは有名人の葬式が映されている。
いったいどこの需要があるのか。

退屈しのぎに外へ出てみると、
行き交う人の多さに気がめいってしまう。

「ちょっと静かなところに行こう」

逃げるように見慣れぬ路地裏に入ったとき。
同じ風景なのに、周りの色合いががらりと変化した。

「あれ? 俺確かに東京駅に……」

さっきまで行き交っていた人は、
半透明な人型の影となって歩いている。

「あれ? 誰だお前は? どうやってここに入って来た?」

向こうから半透明じゃない生物がやってきた。

「いえ、俺間違って迷い込んだだけなんです」

「そんなのはどうでもいい。
 大事なのはお前が才能スカウトマンかどうかだ」

「才能スカウトマン?」

「道を歩いている半透明な影があるだろ?
 それが才能たちだ。良いのを見つけてスカウトする仕事さ。
 まあ見てな」

男は道をせかせか歩く半透明に声をかけた。

「ねぇ、君、今時間ある?」
「ないです」

「だよねー。僕も時間ないんだ。
 だから1秒だけ話聞いてくれる?」
「1秒?」

「僕なら君を最高の宿主へ紹介できるんだけどなーー」

すらすらと続く言葉に、半透明な影は足を止める。
やがて、男についていくと答えた。
その肩を抱きながら男が帰って来た。

「ほら、完了さ。あとは現実世界に連れ帰って
 この才能を再分配……てか、君の名前は?」

「私は発想力です」

「おーけー、それじゃ発想力が欲しい人にこの才能を渡せばいい。
 人を幸せにする大切な仕事さ、スカウトってのはね」

男は俺の来た路地裏に才能をお持ち帰りして、姿を消した。
最初は「変な場所に迷い込んだな」と思っていたけど
こんな風に人を幸せにできるなんて。

再分配ってのはちょっと表現ちがうきがするが。
スカウトだし。

「よし、俺もやってみよう!」

俺は襟元を正して、行きかう才能たちに声をかけた。

「ねぇ、ちょっといい?」
「は? 無理」

「あの、お時間よろしいですか?」
「ナンパはお断りです」

「お願いします! 話だけでも!」
「はい聞いた。それじゃ」

土下座しても半透明な才能たちは誰一人立ち止まらない。
見るのとやるのとでは、まったく難易度が違う。

「……どうしたんじゃ?」

顔を上げると、半透明の才能が立っていた。

「才能をスカウトしてて、なかなか捕まらなくて……」

「それはよかった。ワシは新しい宿主を探してたんじゃ、紹介してくれ」

「はぁ」

なぜか嬉しくない。
シルエットがおじいちゃんなので、才能としてどうなんだ。
いや、中国のカンフー映画ではおじいちゃん超強いし
この才能もなんらかすごい力があるに違いない。

おじいちゃん才能を連れ出して現実世界に戻る。
半透明な才能は完全な透明となり、俺以外には見えなくなった。

「ところで、あなたの才能はなんですか?」

「さぁ、忘れてしまったよ」

この得体のしれない才能を誰に売ろうか。
思いついたのは、ニートの友達だった。

「才能をくれる? 何言ってんだ」

「ほら、ニートでもなんらか強みがあったほうがいいでしょ?」

「あのな、俺っちはニートじゃねぇ。
 立派なクリエイターだ」

「ユーチューブに面白くない動画上げてるだけじゃ……」

「ユーチューバ―だ!!!」
「ごめんなさい」

透明な才能を友達へと渡すと、体の中へと同化した。

「どう? なにか変わった?
 アイデアが湯水のように沸くとか、
 ものすごい金の稼ぎ方が思いつくとか」

「おおおお! アイデアが思いついたぁ!!」

友達は一心不乱にパソコンの作業へと戻った。
良かった。なにか役に立つ才能だったに違いない。

友達の家を去り、再び才能の異世界へと戻った。

「スカウトいたしますよーー。
 新しい宿主をご紹介しますよーー」

強引なスカウトではなく募集スタイルで才能を募る。
しかし、この方法でも足を止めてくれる才能はない。

「はぁ……スカウトできるように、
 スカウトの才能をスカウトするしかないのか……」

自分で言ってても意味わからない。

どの才能に声をかけても殺し文句は
「あんた、実績あるの?」だ。

今はとにかく、最初の才能を譲った友達にかけるしかない。
大成功を収めれば経歴を信用されてスカウトもうまくいく。

なんて考えていると電話がかかった。

『できた!! 最新の最高傑作動画だ!!』

俺は友達の家に急行した。
高鳴る心臓と上がる期待値。そして見た動画は……。

「……なにこれ」

全然つまらなかった。

「頭に爆竹つけて爆発させたんだ!! 楽しいだろ!!」

「え、お前これ才能使ってる……?」

動画はいつも友達が作る動画の毛色だった。
"作者は面白い"と思っているが、全然面白くないタイプ。

案の定、再生回数は指の数より少ない。

「動画広告でかせぐんじゃなくて、在宅で別のことしたら?
 株とか……小説書くとか、あとは」

「はぁ!? お前が才能をゆずったんだろ!!」

「え、ええ……」

逆ギレされて家を追い出された。
友人がユーチューバ―として大人気にでもなれば、
俺のスカウト信用値も上がったのに……残念だ。

「もうだめだ……。
 俺にスカウト才能を身に着けようにも
 スカウトするための才能がない……」

八方ふさがり。
結局はみんな生まれ持っての才能が物を言う。

最初に持った才能以外を渡せるなんて最高だけど、
どうやら最高の仕事には参加できそうもない。

俺にはその才能がないから……。

 ・
 ・
 ・

数日後、ニートの友人がテレビに映っていて牛乳を吹きだした。

「ぶっほ!! え!? なんで!?」

テレビには『直木賞受賞』と書いてある。
友人は満面の笑みでインタビューに答えていた。

『いつも動画を作っていたんですが、
 友人に言われて箸休めに小説を作ってみたんです。
 そのとき、ああ、自分に才能あるなと痛感しました』

これが正しい才能の使い方だったんだ。

どの才能も使い方や活かし方が違っていれば芽を出さない。
俺の紹介した才能は小説の才能だったんだ。

さっそくお祝いをしに友人を訪ねる。

「ありがとうな!! 本当にありがとう!!
 小説を書いていると、別人になったように閃くんだ!!」

「そっか、それはよかった」

「ワシに宿主を紹介してくれてありがとう。
 これでまた大好きな小説を書けるよ」

友人は急に口調が変わった。
才能のおじいちゃんの声、どこかで聞き覚えのある声だった。

「あっ……!」

テレビで見た『直木賞4度受賞作家:正道氏』。
あのおじいちゃんの声にそっくりだった。
まさか、この才能って……。


――再分配


今になってその意味がわかった。

俺が見て来た才能はすべて死んだ人の
さまよえる才能たちだったんだ。

「これからもいい才能紹介してくれよ」

と、えびす顔の友人の後ろでテレビが告げる。


『たったいま、世界的なミュージシャン
 エル・デイビス・プレスリー氏が亡くなりました』