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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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チェックしたくてたまらない!

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ケータイの電源を入れると、
待ってましたとばかりに連絡が来る。

「あーーもう、しょうがないなぁ」

と言いつつも顔は喜び。
SNSは毎回コメントがつくし、
スケジュール帳は予定でびっしりだ。嬉しい。

「もしもし? ゆり? ごめんねー来週忙しくていけないんだ」

『そうなんだ、いいよ全然』

「その日、分刻みのスケジュールで
 人と会う約束が10件と食事会が2件あって
 さらにさらに、予定がほかにも……」

『別にいいけどさ、あんた連絡恐怖症になってない?』

「え? なにそれ?」

『1日だけでいいから、すべての連絡断ってみ?
 誰かと話したりするのもダメ。1日だけ』

「そんなの簡単に決まってるじゃん」

ちょうど明日が休みなので試してみることに。
1日家にいるだけの日々なんて何年振りだろう。

いつも誰かと忙しくしていたから、そんな暇なかった。

「……あ、そうだ。コメント来てるかも」

なにげなくSNSをチェックして慌てて手を止めた。
開始数秒で連絡断絶に失敗するところだった。

「い、いけないいけない……。
 今日は誰とも連絡とっちゃダメなんだ」



数時間後、私の頭はおかしくなりそうだった。

「どうしよう! もし重要な連絡が来ていたら!
 今日しか通用しない連絡が来ていたら!!
 ああああああ!! やっぱり見る!!!」

私は我慢できずに確認した。
連絡はいくつか来ていたがどれも大したことではない。

『もしもし? で、我慢はできたの?』

「……で、できたよ」

『じゃあなんで私と話してんのよ』

「…………」

『やっぱ、あんた連絡恐怖症よ。
 常に自分が連絡受けていないと不安でダメなのよ。
 自分が必要とされてないと我慢できないのよ』

「でもそれって、やばい事かな?」

『じゃあ、あんたケータイ落としたらどうする?』

想像しただけでも背筋が凍った。
1日すら我慢できない私がケータイを落としたら……。


自分の重症度合いを理解したので、
思い切って厚生施設に入ってみることに。

自分だけで我慢しようとしてもダメそうだったので。

「ようこそ、アタシはここの看守。
 さあ連絡できるものすべてを渡して」

「はい……」

不安な気持ちをぐっとこらえてケータイを渡した。
これから、私の病気治療へのカリキュラムが始まる。


「いきなり全部治そうとしても限界があります。
 みなさん、少しづつステップアップしていきましょう」

看守は私たち病人たちに手紙をくばった。

「これになんでもいいので、誰かに送ってください。
 施設の中にポストがあります。簡単でしょう?
 途中で見たり、ほかの手紙に手を付けると失格です」

「なんだ、ずいぶん簡単」

今じゃ全然使わなくなった。手紙なんていつぶりだ。
私はテキトーに選んだほかの患者あてに手紙を書いて投函。

あとはこのまま手紙が届くのを待つだけ……。
待つだけ……。
待つ……。

「ちゃんと届いているのかな? 呼んで無視されてるのかな?
 ポスト間違ったのかな? 宛先間違えたのかな!?」

待っていると不安の種がどんどん大きくなる。
いてもたってもいられなくなって、ポストをこじ開ける。

中にはほかの患者の手紙にうもれて、私の手紙もあった。

「ほっ……まだ配達されてないってだけね

安心していると看守がやってきた。

「……お前だけ、特別カリキュラムだ」

「ええ!? なんでですか?!」

「なんでって、重症だからに決まってるだろ!
 手紙が届くか不安でポストぶっ壊すくらいなんだぞ!」

ぐうの音も出ない。
たしかに、私は自分の連絡がとれないと不安になり
周りが見えなくなってしまう部分がある。ポストも壊したし。

「でも、特別カリキュラムならきっと治るんですよね」

「当たり前だ! それに最終手段もある!」

看守の言葉に私は心底安心した。



特別カリキュラムが始まると、それはもう地獄だった。

完全に連絡手段を建たれた密室で過ごすというものや、
自分の連絡先を強制的に消したりするものもあった。

が。

「ああああ! 連絡!! 確認しなきゃああああ!!」

密室に閉じ込められれば、脱獄の方法を編み出し。
連絡先を消されれば、暗号解読のように記憶から再現する。

特別カリキュラムをもってしても、
私の『連絡恐怖症』は治る見込みはなかった。

「な、なんて重症な患者なの……!」

看守は驚いていた。私も驚くくらいだもの。

「毎日、あなたのことは記録しているし
 なにかあったらすぐに駆けつけるように毎日モニターしている。
 そして、万全のカリキュラムにしているのに……」

「で、でも大丈夫ですよね!?
 ほら! 最終手段があるって!」

「そんなものは……ない!」

「えええええええ!!」

「最終手段なんて最初からない。
 あると思わせて安心させるのが目的よ。
 そんな都合のいいものがあったら、最初にやってる」

「そ、そんな……」

絶望という2文字が頭をかすめた。
この厚生施設で学んだことは『もう社会復帰絶望的』という
私自身の症状の重さだった。

「もうだめ……私は社会復帰できず、このまま死んでいくのね……」

地面に手をついた私に、看守がそっと寄り添う。


「……ただ、アタシが昔に実践した究極手段ならある。
 それならきっと社会の一員として働ける」

「か、看守さんの究極手段!?
 いったいどんな治療法なんですか!?」

「それは――」

私は看守に聞いた究極手段を実践した。



数日後。

私の病気はやっぱり治らなかった。
毎日、連絡が来ることを気にしてしまうし
相変わらず連絡を絶つことができない。

でも……。

『新しい患者さんが来ました――』

「はーーい!!」

この施設の看守となって数日。
連絡恐怖症の患者たちがひっきりなしに連絡してくる。

治せなくっても、この病気とともに生きていける。

それが究極手段だった。

「ようこそ、アタシはここの看守。
 さあ連絡できるものすべてを渡して!」

私は新しく来る患者に、凛とした看守の態度で振舞った。



今にもSNSとかチェックしたい衝動抑えて。