ギタリストに1輪のバラを 第6回 EPILOGUE
病院の帰り、行きとは全く違う雰囲気の中で、ヒサトはタクヤの提言で、自分の病気が奇跡的に治癒したことをテルユキ、ヒロミツ、ペドラに携帯電話で伝えた。言うまでもなく、全員が喜びの声を上げた。ヴォーカルのテルユキに至っては、DEAR PEARLとそのスタッフ陣で飲み会をしようとまで言ってきた。ヒサトが快諾しなかったわけがない。
あと100メートルで自分たちの住んでいるアパートに着こうとしたとき、2人は大柄で腰の曲がった、白塗りに近い顔の1人の老婆の姿を見た。タクヤは
「あ、ど〜も」
と軽い挨拶をしながら彼女に近寄った。女性のほうも、
「あら、どうも」
と挨拶を返した。驚いたヒサトは、一瞬タクヤの顔を見て、
「えっ、知り合い?」
と聞いた。タクヤは含み笑いをすると、こう答えた。
「知り合いっていうか、この人が、いつかおまえにあのバラのプリザーブドフラワーをくれたひとみさんだよ」
「えええっ!!!?」
ヒサトは絶叫した。
「はい、私があなた方の階上に住んでおります、『ひとみ』でございます」
彼はひとみさんとタクヤの顔を慌てて見比べた。ひとみさんは、彼にゆっくりと尋ねた。
「その後、体の具合のほうはいかがですかね」
彼は引きつり笑いをしながら答えた。
「あ、はい、おかげさまで、快復しました」
「あ、ああ、そうですか。それはようございました」
ヒサトは何度も軽く頭を下げ、精いっぱいの愛嬌を振りまいた。
「あ、あはは、ありがとうございます」
しかし、彼は心の中で哀し笑いをした。
(マジかよぉ〜!)
作品名:ギタリストに1輪のバラを 第6回 EPILOGUE 作家名:藍城 舞美