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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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シネマチック・あの世ライフ

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「あ、来たんだな。
 見たらわかると思うがここは死後の世界。
 仕事したくないから質問はするな」

「え、ええ……」

おそらく死因は過労死だろうが
そんなこと気にならないスピード展開についていけない。

周りの異形空間に慣れるだけでも精いっぱい。

「んと、これから人生の走馬灯を
 3部作の映画に仕上げて提出してくれ。
 面白かったら天国、つまらなかったら地獄」

「そんな! 俺、ゲーム会社で映画なんて……」

「ありきたりだったら地獄。
 好みじゃなかったら地獄。
 どんでん返しがしょぼかったら地獄」

「地獄多すぎでしょ!?」

「以上、これ以上仕事増やさないでくれ。絶対に」

天国と地獄のはざまの世界。
その一室で、なぜか俺は映画作りをさせられることに。

4畳半程度のスペースにパソコンが1つ。
扱いには慣れているものの、どうしたものか。

「……よし、やってみるか」

自分の走馬灯が記録されているフィルムを手に取った。

生まれたときから幼稚園、小学生の様子が残っている。
見れば見るほど、懐かしい気持ちになって涙が出る。

「ああ、こういうのもあったなぁ。懐かしい」

三部作のうち、最初の作品は決まった。
タイトルは『初恋』だな。

小学生のころにはじめて初恋を経験し、OKをもらった。
子供だからデートなんかするわけもなく、
公園で遊んだり、学校で軽く話すだけだったけど
なによりもロマンチックで甘酸っぱい歴史だ。

「うわぁ、これ絶対楽しいよ! 天国行き間違いなしだよ!」

作業もやってみると難しくない。
モチベーションが上がったところで、2部作目に取り掛かる。

「ああ……そうだ、ここで一度やさぐれたんだっけ」

今じゃすっかり忘れていたけど、
高校生のときに受験に失敗し浪人となったときは
自殺も考えるほどに落ち込んだっけ。

周囲の人間との差を日々ねたんで、親にあたって……。

でも、次の年に第一志望に受かってからは一転した。
大学生活は刺激と楽しさにあふれて、就職も苦労しなかった。

元々望んでいたITの会社に入ることもできた。
まさにサクセスストーリー。アメリカンドリーム。

「うん! 2部作目のタイトルは
 『挫折 ―成功への10の努力―』だな!」

なんだかそれっぽい。
書店に並んでいても違和感ないぞ。

ますます天国行きが近づいた。

「よーーし! 3部作を締めくくるのは……」

残りのフィルムを確認する。

起床→仕事→食事→寝る
起床→仕事→食事→寝る
起床→仕事→食事→寝る
起床→仕事→食事→寝る
起床→仕事→食事→寝る
起床→仕事→食事→寝る
起床→仕事→食事→寝る
 ・
 ・
 ・

「……あれ?」

どのフィルムを見ても、まるでコピーされたように同じ内容。
どうなってる。答えは自分が覚えていた。

「……そうだ。会社に入ってからは毎日忙しくて
 仕事と家を往復するだけの毎日だったな……」

過労死するくらい働いていた。
小学生のときのドキドキも、大学生の時の充実感もない。

コンベアに流されるように毎日を過ごしていた。

「はぁ……どうしてもっと動かなかったんだ。
 なんで変化を求めなかったんだ、俺……」

毎日変わらない日々に安心感を覚えていた。
でも、それは毎日を薄めているだけだったんだ。

望む望まないに限らずイベントが用意されていた学生時代より
自由になった社会人の方が薄味の毎日だったなんて。

自分で自分の人生をつまらなくしていたことに
死んでから気付くとは思わなかった。

「どうしよう……3部作の最後なのに、
 こんなゴミみたいな毎日じゃとても面白くならない。
 地獄行き決定だ」

門番の言葉を思い出して身震いした。
閃いたのは自分のスキル。

「いや、待てよ。これでも俺はITの人間。
 パソコンを使わせてできないことなんてない!!」

現世でのスキルを活かす瞬間が来た。
俺はフィルムのデータを加工し、編集して、面白くした。

「うんうん、いいぞいいぞ……!
 ここで俺が実は首相になっていたことにしよう。
 そして、地面には巨大な爆弾が埋まってることにして……。
 そうだ! 恐竜の復元にも成功させよう!」

持ち前のPCスキルを存分に生かして、
CGと編集で最高にスリリングな三作目が仕上がった。

ラストには、地球がもう一つあったという
とんでもない大どんでん返しまで用意しておいた。

「これは傑作だ! 3作目『エボリューション』だな!!」

もはや自信しかない。
生前、この三部作を公開しなかったのが悔やまれる。

3つのフィルムを引っ提げて門番のもとへと戻った。

「よし、できたみたいだな。
 仕事が増えないよう、つまらなかったら地獄行きだ」

「まあ見てくださいよ」

最初こそ疑ってかかった門番だったが、
1作目、2作目を見るほどにどんどん虜になっていった。

そして、自信の3作目を見せると涙を流して拍手。

「すばらしい!! なんてすばらしい人生なんだ!!
 地球の秘密に気付いて、実は首相が殺人ロボットで
 その暴走を事前に止めるために命をなげうったのか!!」

「ええそうなんです!!」

「こんなにドラマチックで、シネマチックな人生は初めてだ!!
 さあ、天国に行ってくれ!!」

「ありがとうございます!!」

かくして、俺は天国行きを勝ち取った。
めでたしめでたし。




なお、スピンオフ作品の作成も決まった。

俺が天国行きになってからの人生をまとめたものだ。
内容は……その……。

「だから! 突然、二つ目の地球から侵略者が来たんです!」
「殺人ロボットが町で暴れていて殺されたんです!」
「地球に秘められた爆弾が爆発したんです!!」


4作目のスピンオフ作品のタイトルは、
『破壊 ―過去なんて帰るんじゃなかった―』


俺が走馬灯を編集したことで、
現代がとんでもないことになっている作品だ。

――もちろん、楽しさは保障してみせる。