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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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ギタリストに1輪のバラを 第5回 信じられない現実

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 ヒサトが「ひとみ」から薄紫色のバラのプリザーブドフラワーをいただいてから数日後のことである。タクヤは、考えられない光景を見た。何と、ヒサトがベッドの上に座り、鼻歌を歌いながらエアーギターをしていたのだ。しかも、ギターをかなり激しく振るようなアクションとともに、頭を左右に激しく振っていた。
「ヒサト、おまえ何やってんだよ」
 タクヤの呼びかけに、彼は動きを止めて答えた。
「何って、ライブのイメトレだよ」
 タクヤは苦笑いして
「あんまり暴れると、体に悪いぞ」
 と言いながらも、確実にヒサトの何かが変わったと感じ取った。

 次の日の8時30分頃、タクヤはヒサトの
「おはよっ」
 と言う声に起こされた。彼は次第に目を開きながら、
「ああ、おはよう。…でもおまえ、よくこんな時間に起きれたな」
 と言った。ヒサトは軽く笑って答えた。
「何だか早く起きれちゃった。ってかさ、朝飯、僕が勝手に作っといた」
 彼はテーブルのほうを向いて言った。
「え、何だって」
 タクヤはまだ何が何だかわからないまま、脱衣所に移動してそこで着替え、洗顔と整髪を済ませた。

 タクヤがテーブルのそばまで行くと、既にヒサトが席に着いており、テーブルの上には適当にバターを塗られたトーストとサラダ、そして何かのシリアルがそれぞれ2人分用意してあった。
「これ…おまえが作ったのか?」
「うん、まあね。かなり雑だけど」
「いや、いいよ」
 そんな会話のあと、タクヤはヒサトの横に座り、2人で食前の挨拶をしたあと朝食を食べ始めた。

 食事中、タクヤが会話の口火を切った。
「そういえばさ、おまえ、ここんとこ、咳しなくなったな」
 ヒサトが答えた。
「ああ、そういえばそうだね。今気付いた。あと、何だか最近、胸も痛くなくなったし」
「…本当か」
「うん」
 これを聞いたタクヤは信じられない、と言いたそうな顔をしたが、すぐに穏やかな顔つきに戻り、スプーン1杯のシリアルを口に運んだ。