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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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20代のおじいちゃん

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「明日、新人が入ってくるから新人教育よろしくな」

「え、はぁ……」

そんなことを言われたのは何時間前だったか。
もう時刻は夜の11時。

「ただでさえ忙しくて残業続きなのに……
 このうえ、新人教育だなんて……はぁ」

また帰るのが遅くなる。睡眠時間が短くなる。
もうこれ以上は限界かもしれない。

電源を落としたパソコンのディスプレイには、
疲れからか、やけに老け込んだ自分の顔が映る。

「……やれやれ、まるでおじいちゃんだ」

その顔には深くしわが刻まれていて……。

「あれ!? なんだこれ!? どうなってる!?」

明らかにおかしい。老けるとかそういうレベルじゃない。
これはもう完全におじいちゃんだ!!

顔だけじゃない、体もすっかりおじいちゃんになってしまっている。

「い、いったいどうすれば戻れ……! ……いや待てよ?」

今の俺は完全におじいちゃん。
おじいちゃんといえば、悠々自適な毎日を過ごしている。

「そうだ! このままおじいちゃんライフを過ごそう!」

最後に休んだ休日はいつだったか覚えていない。
こんな多忙な生活から抜け出すチャンスだ。


翌日から、俺のハイパーおじいちゃんな毎日が始まった。

「平日のこの時間に、こんな自由に過ごせるなんて最高だ♪」

仕事、仕事、また仕事。
そんな泥沼の毎日から解放されて公園へ。

そこでは暇を持て余した老人がゲートボールをしていた。

「ちょっと混ぜてもらっていいですか?」

「あらあら、新しい方ですかぁ。どうぞどうぞ」

おばあちゃんに軽くルールを教えてもらって初めてみる。
数分もしないうちに、俺はダブルスコアで圧勝した。

「まぁ、あなたすごいんですねぇ!
 今までこんなに強い人はいなかったですぅ」

「はははは、いえいえ、偶然ですよ」

老眼の高齢者と、現役ばりばりの20代ではスペックが違う。
同じゲームをやっても圧倒的な差だ。

ゲートボールを通して、おばあちゃんとは仲良くなった。

どうせ家にいても退屈なので、
旅行をしたり公園でおしゃべりしたりして
「高齢者らしい」生活をしていた。でももう限界だった。

「なんか……積極的に生きてない気がする」

「それはどういうことですかぁ?」

「俺は毎日ヒマをつぶすことに必死で、
 1日を何かに役立てていない気がするんです」

「はぁ、でしたらお仕事をしてみては?
 最近は高齢者でも雇ってくれるところがあるんですよぉ?」

「それだ!!」

俺は募集広告を見つけると、さっそく企業の社員となった。
見てくれは老人だが中身は即戦力の若者。
全員の鼻をあかしてやる準備はばっちりだ。

「おじいちゃん、これコピーね」
「おじいちゃん、コーヒーよろしく」
「おじいちゃん、書類整理しておいて」

「は、はぁ……」

なんだこの仕事。
どれも簡単で単純すぎて……バカにしてるのか?

「あの、わしも商品開発や営業の仕事に関わらせてほしいんですが。
 これでも前職はこれと同じ業界で……」

「あっははは、いやいやいや、大丈夫ですよ。
 おじいちゃんはできることだけやってください」

たしなめられてしまった。
おじいちゃんというだけでPCも扱えないと思われたのか。

「ふふふ、今に見てろよ……!」


翌日のこと。

「おい、これの資料は?」
「できてます」

「顧客リストのまとめは?」
「はいどうぞ」

「プレゼンの準備どうなってる!」
「すでに終わっています」

俺は先回りして仕事をしていた。
これで俺のことを見直すだろう。

「おじいちゃん、すごいじゃないか。それじゃコピーよろしく」
「誰かに手伝ってもらったの? コーヒーお願いね」

俺を見る目は変わらなかった。
誰も俺がひとりでやり遂げたと信じなかった。

「くそ、どいつもこいつも俺をジジイ扱いしやがって!
 見てろ! もっとできるってところを見せてやる!」

日に日に残業時間は増えていった。
気が付けば、高齢者の体になる前と同じようなライフサイクルに。

「まだだ……! もっと俺の力を見せつけてやる……!」

夜の11時。
みんな帰宅したオフィスで仕事をしていると、
だんだんと意識が遠くなって……。

 ・
 ・
 ・

「大丈夫ですか? ここは病院です」

目を覚ましたのは病室だった。

「過労です。おじいちゃん、あまり無理しないでください。
 あなたは高齢者なんですよ」

「はぁ……」

俺には臨時の休暇が与えられた。嬉しくない。
またこれで職場のやつらにジジイ扱いされてしまう。

"年甲斐もなくムリするから"とか言われるんだ。

「大丈夫ですかぁ?」

ふと、顔を上げるとゲートボールで知り合ったおばあちゃん。
首に金のネックレスをつけているので一発でわかった。

「聞きましたよ、過労で倒れたんですってねぇ」

「……あなたも、年齢に相応しく働けって言いたいんですか?
 高齢者は高齢者らしく、将棋でもうってろって!」

「…………なにをそんなに張り合っているんですかぁ?」

おばあちゃんは、ゆったりと笑った。

「お仕事、頑張っているのはわかりますよぉ。
 でも、お仕事だけ頑張る必要はないと思いますぅ」

「どういう……?」

「あなたとしたゲートボール、楽しかったですぅ。
 公園でのおしゃべり、ちょっとしたお散歩。
 それも仕事に生かせるんじゃないですかぁ?」

「そんなの仕事の役に……」


――立つかもしれない。


そうだよ。なんて狭い視野で考えていたんだ。
なにが仕事の役に立つかなんて、わかるわけないんだ。

「ありがとうございます!」

病院から仕事を復帰するころには、
もう前のように残業するどころか一目散に会社を出た。

そうしてできた時間で、知らない人と交流したり
新しい趣味を始めてみたり、仕事以外のことをはじめた。
仕事とは本当に関係ないことをした。

「ふむ、それだったら、畳み職人の発想が役に立つ」
「営業のコツなら、詐欺師の話し方にヒントがあるよ」
「まずはここを改善するといい、知人の会社はそうして上手くいった」


「「「 ありがとう! おじいちゃん!! 」」」

気が付けば『歩く知恵袋』なんてあだ名がつくほど、
俺の職場での存在価値はぐんぐん上がっていった。

他の人が知らないことを知っているだけで、
それが生かせるチャンスはいくらでもある。

「ただ、仕事だけにとらわれていたら
 こうはうまくいかなかったなぁ」

珍しく残業した夜の11時。
誰もいないオフィスでPCの電源を落とした。

ディスプレイには生気が宿ったように
生き生きとしたおじいちゃんの顔が映っていた。

まるで、若返ったように……。


ガシャンッ!!

「いってぇ!!」

キャスター椅子がひっくり返って目が覚めた。

「な、なんだよ……夢か」

ディスプレイには20代の顔が映っていた。
でも、前に見たときよりもずっと元気そうに見えた。

「よっし! 明日の新人教育、がんばるぞ!」

明日は、仕事にとらわれていた自分ともおさらばだ。


翌日、若い女性の新人が入社した。
俺は新人に負けないくらいの元気であいさつした。