あなたになら、なんでも相談できる!
友達から相談の電話を受けた。
彼女をどう作ればいいとか、人生がどうとか
なんだかよくわからない話だったのでテキトーに流したのが昨日。
今日、その友達から電話がかかってきた。
『お前の言う通りやったら大成功だ! ありがとな!』
「お、おお……」
『お前、ほんと相談役に向いてるよ!』
「そ、そう?」
なんかそう言われると、
俺がさも博識な男のように思えるので悪い気はしない。
それ以降、友達つながりで相談を受けることが多くなった。
「あの、この部屋とこの部屋。どちらがいいですか!?」
「今の彼氏に悩んでいて……どうすれば?」
「仕事が辛くて行きたくないんです……」
驚くことに、なぜか俺のアドバイスはすべて的を射ていた。
「先生の言ったように、あの部屋を選んで正解でした!」
「先生の言う通り、彼氏と仲直りできました!」
「先生はすごいや! 仕事辞めてよかったです!!」
「そうでしょう、そうでしょう」
いつしか俺の名前の敬称は「先生」にまでランクアップ。
なんなら政治家と肩を並べる存在になった気がする。
「もっと先生のこと、広めて良いですか!?」
「ええ、もちろん」
評判は評判を呼び、俺には直接会いに来る人だけでなく
24時間365日ひっきりなしに連絡が来るようになった。
どうせテキトーに流しても、
俺の言葉を選んだ結果の間違いはない。
『教祖! 相談があるんです!!』
「………今、午前3時れすよぉ」
『今、コンビニでどっちのお菓子を買うか悩んでるんです!
チョコとスナック……同じ値段ならどっちがいいですか!?』
今すぐ受話器を叩き壊しそうになったが、
大事な金を落としてくれる客である以上邪険にはできない。
「そっと胸に手をあてて考えてください。本当に食べたいものを……」
『わかりました! おにぎりです!』
「そっち!?」
気が付く人はわかっただろうが、
いつの間にか俺の敬称は「教祖」までグレードアップ。
悩める信者は、靴ひもの結び方まで俺に聞いてくる。
「はぁ……このままじゃパンクするな。
こんな四六時中電話取るわけにもいかないし……。
そのうえ、客は新規客ばっかりで大変だし……」
そして閃いた。
「待てよ? 逆に考えるんだ。
客が新規だとくれば、俺の声なんてわからない。
だったら別の人が答えても問題ないはずだ!」
そこで、まずは自分の問答集をマニュアル化した。
オペレーターを何人も雇ってコールセンターを設置。
さながら「俺カンパニー」ができあがった。
「よっし!! これで何人もの相談者を一気にさばけるぞ!!」
客の回転率イコール売り上げ。
たくさんの相談を答えられれば、お金持ち間違いなし。
ただし、相談面もぬかりはない。
相談内容に応じて細かく細かくジャンル分けしたので、
どんな相談が来たとしても、俺の代行者が専門的な答えを出せる。
「トップの俺は楽できるってわけだ!!」
俺は予約していたバカンスに行くとしよう。
そのとき。
『大変よ! あなたのお父さんが……!!』
身内の訃報は突然に訪れる。
慌てて実家に帰ると、仕事着のままの父親が寝かされていた。
「お父さん、前から具合が悪かったの……。
でも、あなたに心配かけまいと連絡せずに
毎日パチンコとセクハラとパチンコをしていたの」
「おいちょっと待て」
「でもね、働きすぎが原因で倒れちゃって。
そのまま……この通りよ。
前から悩んでいて、有名な人に相談はしてたみたいだけど……」
「ちょっと待ってくれよ!
親父の会社はなんていってるんだ!?」
「お父さんの会社は何も……。
働きすぎどころか、働いてなかったって。
持病の脳梗塞と心筋梗塞が死因だろうって」
「なんて無責任な会社だ!! 俺がクレームつけてやる!!」
俺は親父のケータイを手に取り、一番最新の電話番号にかけた。
「おい!! あんたの会社に言いたいことがある!!」
『はい、どういったご意見でしょう』
「親父が死んだ原因は心筋梗塞だと!? ふざけるな!」
『どういったご意見でしょう?』
「だから、あんたのせいで親父は……」
『そのご相談でしたら、家族に関する窓口におつなぎします』
プツッという内線が切り替わる音。
今度の声は男だった。
『どういったご意見ですか?』
「あのな! 親父の対応についてだけどな!!」
『会社に関するご意見でしたら、別ですのでおつなぎします』
プツッ。
また内線が切り替わる。
『どういったご意見でしょう』
「だ・か・ら!! 俺の親父が……ッ!!」
『家族に関するご相談は、家族の窓口におつなぎします』
プツッ。
今度は内線ではなく、堪忍袋が切れた音。
「ぬあああああああ!!! ふざけるなぁ!!
さっきからたらい回しばかり!! どうなってる!!」
『これも規則でルールで仕事ですので』
「だったら責任者を出せ!! お前じゃ話にならない!!」
『責任者は今、不在でして……』
「はあああああああ!? この無責任クソ会社!!
責任者不在ってどういう神経してるんだ!!」
なんだこの無責任すぎる会社。
結局、こちらの話をなにも聞いちゃいない。くそ会社だ。
電話を切ると、母がこちらを見ていた。
「あ、ごめん。なんかお父さん生きてたみたい」
「ええええええ!?」
「もちをのどに詰まらせただけなんだって。人騒がせねぇ」
「なんだよ人騒がせな……」
まぁ、それでも親父の会社の問題性はわかったし
今後はこういうことがないようにしなくちゃな。
「それじゃ俺はいったん会社に戻るから」
会社の荷物を持てばバカンスの準備はばっちり。
会社につくと受付が青い顔でやってきた。
「社長! 大変です! クレームが来ています!」
「んだよ、このタイミングで……。
これからバカンスに行くっていうのに……」
しょうがないので、俺は録音されたクレームを再生した。
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"おい!! あんたの会社に言いたいことがある!!"
『はい、どういったご意見でしょう』
"親父が死んだ原因は心筋梗塞だと!? ふざけるな!"
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『これも規則でルールで仕事ですので』
"だったら責任者を出せ!! お前じゃ話にならない!!"
『責任者は今、不在でして……』
"はあああああああ!? この無責任クソ会社!!
責任者不在ってどういう神経してるんだ!!"
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「あの……これは……」
「先ほど、お客様からいただいたクレームです。
マニュアル通り、ご相談のジャンルへとつないだんですか
……まるでこちらの話を聞かないんです、バカですねぇ?」
「そ、そうだな……。本当に……」
たらい回しの環境を作ったのは俺です。
その後まもなく、相談者を雑に扱った会社はつぶれて消えた。
作品名:あなたになら、なんでも相談できる! 作家名:かなりえずき