１５分のパーフェクトタイム日課
深夜２時。
わずかなデータミスで残業を余儀なくされ、
家に帰るころにはもうぼろぼろになっていた。
コンビニで買ってきた弁当を広げてテレビをつける。
「……あ、この時間ニュースやってないか」
テレビではうさんくさい通販をやっていた。
ふと、目が止まったのは疲れていたからだと思う。
『この１５分時計を手首につけてスイッチを入れると、
なんと１５分だけパーフェクトな人間になれるんです！』
「ははは、バカじゃねぇの」
その時計が来たのは３日後。
お酒と眠気で自分でもわけわからないことをした。
「なんだこの時計。時間見れないじゃん」
形は腕時計なのにデジタル表示は１５分だけ。
これじゃストップウォッチだ。
会社に来てみても、まだ疑問は晴れない。
「……パーフェクト、ねぇ。ちょっとやってみるか」
試しにスイッチを入れてみた。
一気に頭が活性化し、視界がクリアに見える。
「こ、これはすごい！！！」
仕事に取り掛かると通常の何倍ものスピードでこなせる。
同時進行もなんのその。
細かいミスがないことも作業しながら気付けてしまう。
１５分後。
風船がしぼむように、体から覚醒感が抜けていく。
「これがパーフェクトタイム……か」
もとに戻っただけなのに、
さっきの状態からの落差がすごすぎて
今の状態がひどく劣っているように感じてしまうほど。
――これは使えるかもしれない。
「いいか、今日は大事な取引先へのプレゼンだ」
「まかせてください」
１５分のパーフェクトモードに入る。
「では、みなさん。今日は最高に素晴らしい商品をお伝えします」
俺はさながらスティーブジョブスのように
軽妙で魅力たっぷりなプレゼンをこなせてしまう。
商談はもちろん成功。
「……ねぇ、話ってなに？」
「ああ、それはね……」
別の日に、気になっている女性とデート。
１５分のパーフェクトモードに入る。
「俺にとって君といる時間は
形而上学的なアブソリテーションのかなたへと連れて行ってくれる。
俺と……つきあって、くれるかな？」
「なんだかよくわからないけど……素敵 ///」
１日に１５分だけパーフェクトになれる。
それだけで俺の人生は劇的に変化した。
「はははは！！ 最高だぜ！！」
これで会社でも一番の出世頭に……。
「でも、１番は泥田だよな」
「間違いなく泥田だね」
「あいつが出世ナンバーワンだ」
「え、俺じゃないの！？
大事な場面でいつも活躍してるじゃん！」
「いやぁ、いつもちゃんとしてる泥田には及ばないよ」
「なにぃ！？」
泥田。
なんだその泥臭そうな名前。
さっそく偵察に行ってみるとなんなく泥田は見つかった。
「ああ、どうもすみません。ははは」
見た感じどう見ても普通だ。
仕事ぶりもパーフェクト状態はおろか、通常の俺と大差ない。
いったいどうしてこんなにも差が出るんだ。
「ま、まさか……あいつもパーフェクトタイムを持っているのか！？」
そう思ったが最後、そうとしか思えなくなる。
今はどうみても普通の能力しかない。
でも、俺以上の人気を集められるとすれば
間違いなくパーフェクトタイムを持っている。
ともすれば、俺以上に……３０分とか使えるかもしれない。
「よし、ストーカーするのは辞めだ。
俺を敵に回したことを後悔するんだな」
泥田からすれば知ったことではないかもしれないが。
俺以上に目立っていることは許されない。
パーフェクトモードを使って
１５分以内に泥田から時計を奪える作戦を練った。
作戦決行。
俺は自分の時計を道に捨てた。
「……あれ？ どうしてこんなところに」
泥田が通りかかると、俺の時計を見つけた。
（ふふふ、計画通りだ）
泥田は自分の持っている時計と見比べる。
自分が落としたわけじゃないと考えているんだろう。
「あ、ちょっと！ 俺の時計になにしてるんだよ！」
わざと人を集めるように大きな声を出す。
周りからはさも盗人のような空気にさせる。
「これは……拾ったんだ」
「ああ、そうなんだ。
それじゃ、どうしてもう一つの時計もつけてるんだ？」
「え！？ これは僕の……」
ギャラリーを集めたかいがある。
周りの視線はすでに泥田を泥棒としての先入観ができた。
これ以上の主張は言い逃れにしか聞こえないだろう。
「わ、わかったよぉ！！ あげるよぉ！！」
泥田から時計を入手した瞬間、俺のパーフェクトタイムは終わった。
「ふふふ、やったぜ。
これで少なくとも２つぶんのパーフェクトタイムが……ん？」
泥田から奪った時計と、俺の時計を見比べる。
「あれ！？ これ違うやつじゃん！！」
遠目からだったので気付かなかった。
２つの時計配色も違っている。別の時計だ。
「でも、１５分の刻みはあるんだな……。
ということは、単にデザイン違いってだけか？」
試しに泥田の時計のスイッチを押してみる。
「うぉっ！？」
なにもないところでスッ転んだ。
転んだ拍子に書類をぶちまけ、パソコンを破壊してしまう。
周りは大爆笑。
「あっはっはっは！ お前、泥田じゃないんだからな」
その後も、なにをやっても失敗続き。
１５分経つとやっといつもの状態に戻った。
「これはパーフェクトタイムじゃない。その逆なんだ」
ドジタイム。
泥田が人気の原因はこれだったのか。
１日のうち１５分だけどうしようもない姿を晒せば、
残りは普通に過ごしているだけですごいように見える。
俺は１５分だけパーフェクトになれるが、
泥田は１５分ダメダメな時間を作ることで、
残り２３時間４５分をパーフェクトに見せていたんだ。
「くくく……この２つが手に入った今。
俺の評価がいっきに上がること間違いない！」
運命の翌日。
パーフェクトタイム、ドジタイムをそれぞれ使った。
これで俺の評価は間違いなく……。
「さっきはあんなに完璧にこなせたのに、
どうして今になってこんなミスをするんだ！！」
「あなたはもっとできるはずでしょ！
こんなミスするわけないじゃない！！」
「前みたいにパーフェクトな仕事をしてくれよ！
こんなドジするわけないだろう！！」
俺の評価は地の底へと叩き落ちた。
"パーフェクト"であることを見せた以上、
ドジをする俺を誰も認めることができなかった。
「だって！！ あなたはもっとできるはずでしょ！？」
もう会社いきたくない……。
作品名：１５分のパーフェクトタイム日課 作家名：かなりえずき