安眠映画でおやすみなさーい!
パソコンから出るブルーライトで
上手く眠れなくなった現代人がこぞって集まる。
彼らのお目当ては「見ると絶対に寝る映画」だった。
※ ※ ※
それより時間が戻る。
安眠映画監督たちは自作を作っている最中だった。
「た、大変です! お客様でどうしても眠らない人が!!」
「「「 なんだって!? 」」」
映画監督たちは安眠映画館にいく。
リクライニングした座席と、天井に投影された映画。
寝息が反響する映画館の中にひとりだけ。
たったひとり、完全に目が空いている客がいた。
「ふん、全部見終わったわい。
なにが安眠映画じゃ、バカにしおって」
「あなたは……! 安眠映画評論家……!」
「数々の安眠映画を見たせいで、もう眠れなくなったわ。
こんなゴミばかり放映するようなら、この映画館をつぶす」
評論家の宣伝力ではそれが可能。
監督たちは死刑宣告を受けたように固まった。
「このままじゃまずい!
なんとしても評論家を映画で寝かしつけるぞ!!」
そこで、世界のなだたる映画監督を呼んだ。
「どうも、スプルバーグです。
ファンタジー映画ならおまかせあれ」
「官崎駿ですぞ。家族とか愛とか青春が得意ですぞ」
「私はキャメリロン。SF映画ならおまかせください」
「僕は山田太郎」
「お前誰だ」
「山田太郎です。大学で映画研究会に入ってます」
映画監督がずらりとならんだ。
ひとりだけ明らかな場違いがいるが気にしない。
「みなさん、ぜひ腕を振るって
最高に眠くなる映画で評論家を寝かしつけてください」
それからしばらくして、評論家がやって来た。
「して、映画はできてるんじゃろうな。
もし眠らなければこの映画館の悪評を書いてつぶす」
「も、もちろん、できていますよ!」
大学生のやつだけ映画提出されなかったが、
最初から戦力外なので気にしない。
評論家は席につくと、順番に映画の上映が始まった。
1作目『ジュラシック・ジョーズ』
美しい大自然と、海が映える映画。
必要以上にギャーギャー騒ぐとうるさくて目が覚めるが、
そこはスプルバーグ監督はわかっている。
雄大で静かなショットを繰り返し、
波のない展開に抑えることで絶妙な眠気を……。
「眠れん。次」
ダメだった。
2作目『耳と風の神隠し -生きねば-』
今度はアニメ映画。
目に痛い色を排除し、水彩画のような優しいタッチ。
あえて複雑な人間模様や感情を入れることで、
映画と視聴者の溝を作って眠気を……。
「眠れんな、次」
ダメだった。
これにはさすがに映画館関係者もざわつき始める。
「な、なんで眠ってくれないんだ……」
「次で最後だぞ。これで眠ってくれないと……」
そこにキャリロン監督がやってくる。
「安心してください。
評論家というのは常に新しいものを求めている。
だからこそ、食い入るように見て眠くならないんです」
「つまり……?」
「あの手の連中には、ありきたりで、
次の展開が読めるようなものが一番効果的なんですよ」
「なるほど!」
3作目 『ターイ・ネーター7』
豪華客船で未来から来たアバター(遠隔殺人兵器)が襲ってくる。
しかもシリーズ作品なので、設定は前回から使いまわし。
とくに目新しい要素を盛り込まずに、
前回から半歩出たくらいの展開に抑えた映画。
「これは完璧だ!! いけますよ!!」
関係者は映画館の様子を見た。
「ふぅ、危なかったが、まだ眠れんな」
それでも評論家は眠らなかった。
「なんてことだ……もう終わりだ……」
大学生、山田太郎がやってきた。
「僕の映画がまだですけど」
「あ、うん。じゃあやって」
「はい」
いつの間にか合流していた山田太郎。
最後の映画上映が始まった。
関係者は完全に冷めきっていた。
「大学生だからな、低予算なものしか作れないだろう」
「おおかたスタッフロールを延々と流すとか、そんなんだ」
「退屈な映像と映画はちがうってのに」
ぐだぐだ文句を言うこと1時間半。
映画館から聞こえるおおいびきに関係者は驚愕した。
「な、なにぃぃ!?」
評論家は映画館の座席の上でぐっすり眠っていた。
「す、すごい!! いったいどんな映画を!?」
「ドキュメンタリー映画です」
「その手があったか!!」
ドキュメンタリー映画。
関係者のインタビューやらがメインになるこのジャンル。
見ていて眠くなる映画の定番だ。それでいて低予算。
「ようし、さっそく見てみよう!」
関係者は山田の映画を見てみることに。
映ったのは映画館だった。
そして、画面中央には初老の男性。
「これは……うちの映画館?」
画面中央で難しい顔をしている男は、評論家だった。
「映画のタイトルは、
『どうやって眠らせたか?』です」
「ドキュメンタリーって、眠るまでのドキュメンタリーかよ!?」
映画評論家が眠るまでをリアルタイムで撮影し、投影。
どうりで映画が間に合わなかったわけだ。
全員が画面を食い入るように見つめた。
・
・
・
「……はっ! いけない、寝てしまっていた」
映画を見ている人を見る、という作業ほど眠くなるものはない。
気が付けば関係者全員が眠りこけていた。
「さすがの評論家も変わり映えしない自分を見つめていれば、
絶対に眠くなるというわけか! すごい!」
「ええ、まあ……」
「さっそくこの名作を全国の安眠映画館で公開だ!!」
かくして、映画は公開された。
絶対に眠らない評論家を眠りに叩き込んだ知名度で
『見ると絶対に寝る映画』として大ヒットした。
「……それでさ、結局、あの男はいつ寝たんだ?」
「さあ。オチまで起きてられないし」
「まあ、どこかで寝たんだろうな」
映画の終盤、評論家は結局眠らなかったので
急にフレームインしてきた山田太郎が
睡眠薬を注射する衝撃のラストは誰も知られることはなかった。
なにせ、前半の1時間29分でみんな寝てしまうから……。
作品名:安眠映画でおやすみなさーい! 作家名:かなりえずき