小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

赤秋(せきしゅう)の恋

INDEX|1ページ/7ページ|

次のページ
 

1


9月も半ばになって、室内温度が30度に満たない日が続き、雅夫は秋を感じた。節約もあって、そんな時は作業場のエアコンは使わなかった。
雅夫はタクシーの運転手だったが、43歳の時、人身事故に巻き込まれ、どちらが加害者であるか、被害者なのか判断に苦しむ事故であったが、相手は腕を骨折し、雅夫は軽傷であった。そんなわけで雅夫は加害者となった。雅夫はその事故から、運転手に嫌気がさし、知人の紹介で、自動車部品の加工を始めた。16年勤めた退職金は300万円ほどであったから、15坪ほどのプレハブの作業場を建て、内職ほどの仕事しかできなかった。ドアの内張りのなかのビニールに防音布を張ったり、サンバイザーに鏡を取り付けたり、コンソールボックスのビスを止めたりと言った、手作業のなんでも屋であった。本社から下請け、下請けから孫請け、その孫請けが雅夫であった。
 平成27年は自動車産業は好調であったから、雅夫が手に出来る収入も毎月50万円ほどあった、パートで雇っている従業員が3人いた。時給は800円で、2人は主婦であり、4時間ほどの勤務であった。あと一人は30歳の独身であった。彼女は春と言う名前であった。雅夫はいまだに独身であったから、春の事がいつも気になっていた。春は8時間勤めたいと言った。午後3時になると、作業場は雅夫と春だけになる。
 西日が差し込み部屋が陰と陽に映る。春はコンソールボックスにビスを打ち込んでいる。ビビビと軽快な作業音が響く。雅夫は、覚えの早い人だと思った。ねじ山から、ドリルが外れてしまうと、がりがりとねじ山を滑る音に変わるが、春の作業からはほとんど聞こえなかった。54歳になった雅夫であるが、気持は春と同じくらい若いと考えてしまっていた。雅夫は春に少しでも近付きたかったのだろう。