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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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人生リハーサル87回

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ヴィンヴィンヴィン!! バリバリバリ!!

「はっはーー!! オラオラ!!
 東北死闘隊のお通りだオラーー!!」

車道を逆走し、鉄パイプを振り上げる。
風を切って走るこの瞬間がなによりも楽しい。

「オレを止められる奴はいないぜーー!!」

仲間と一緒に走る。

成績がちょっと悪かっただけで社会からは追い出される。
だがこの仲間たちはけして俺を裏切らない。
どうしようもない俺に残された最後の聖域だ。

「ケンちゃん!! 危ない!!」

はずだった。


ゴシャッッ!!!


最後に見たのは対向車線から突っ込んでくるトラックのバンパー。
目を覚ますと、真っ暗な場所に寝かされていた。

「ここは……」

目を覚ますと、近くにスーツの男が立っていた。

「リハーサルですか? 本番ですか?」

「……え? なんですか?」

「なるほど、そのリアクション、本番ですね」

「それより、ここはどこですか?」

「ここは天国と地獄の前のホールです。
 あなたは死んじゃったんですよ」

「さっきの質問はなんですか?
 これから俺は査定されるんですか!?」

「ああ、もう。うるさいですね。
 いいから本番の人生やってきてください。後も使えてるんで!」

男はポケットからボタンを取り出して押した。
俺の足元がぱかっと割れて真っさかさま。

地面に叩きつけられるよりも早く目が覚めた。

「はっ……!」

今度はどこかの家で目が覚めた。
鏡を見てみると、映っていたのは気合の入ったヤンキーではなく

「こ、子供……!?」

俺の体は子供の体、それもまるで違う人間になっていた。
薬を飲まされて小さく……なんてわけじゃない。

「そういえば、あのスーツの男……リハーサルとか言ってたな」

いろいろ考えてたどり着いた結論は1つ。
これまでの俺の人生はリハーサルだということ。

つまり、今3歳児としてスタートしているこの世界。
これが本番の世界なんだ。

「よし、前の人生の失敗を教訓にして努力するぞ!!」

俺は親が止めるほどに勉強を熱心に取り組んだ。
前の人生ではとうてい考えられないこと。

でも、前のリハーサル人生を過ごしてわかったのは
人間の価値は肩書きで決まり、勉強がその引換券であるということ。

リハーサル人生では勉強をさせる親を憎んでいたほど。


小学校受験に成功し
中学受験で成功し、高校受験で成功し、
大学受験でも成功を勝ち取った。

「見たか! 俺の努力の才能!
 これでこれからの人生に障害なんてなーーい!!」

俺の狙いは的中だった。
ちょっとスタートで勉強しただけで人生はエスカレーター。

いい会社に苦も無く入り、いい仕事について
良い車に乗って、いい家に住んで、いい嫁さんと結婚できた。

「……なんだろうな、これ」

前と比べて、経済的にもありとあらゆる部分が成功している。
それでもこの日々が今後もずっと続くと思うと……。

まるで魅力的に感じない。

「リハーサル人生の時は、辛くて苦しいことばかりだったけど
 それでも毎日新しい発見があって充実していた。
 でも今は安定してなにも変化がない……」

なまじ2度目の人生なのでどうしても比べてしまう。
これだったら変に勉強しない方がよかったのでは。

もう一度やり直すことができれば……。

「そうだ、だませばいいんだ! あの男テキトーだったし!」

スーツの男は口頭だけでチェックしていた。
これならリハーサル人生だと騙せるかもしれない。

俺は会社の金を使い込んだ後、
住んでいる高層ビルの窓から飛び降りた。

 ・
 ・
 ・

「リハーサルですか? 本番ですか?」

「えーー? なんですかぁそれ。ワカラナイナー」

目を覚ますと、見覚えのある暗い空間。
スーツの男は俺の後ろに控えている死亡者の管理に忙しい。

「ああ、それじゃ次が本番ですね。次の方どうぞ」

スーツの男がスイッチを押すと、
俺の足元が割れて急降下。目を覚ますとまた子供だった。

「おお、今度の人生はずいぶんイケメンだな」

今度の人生も、リハーサルとも最初の本番とも違う。
また新しい人生からスタートだ。

「わっはははは! 酒池肉林だぜ!!」

今度はイケメンという特性を生かして、ハーレムを作った。
浮気に不倫は当たり前。ゲスな人生を過ごしまくった。

これまで一度も体験したことない人生経験は楽しい。

「あはははは!! 最高だぜ! 欲望のままに行動できる!!
 どうせ飽きたら死ねばいいんだから!!」

なんて余裕をぶっこいていたら、浮気された女に刺された。
どくどくと流れる血を眺めながら次の人生はどう楽しむか考えた。


「リハーサルですか? 本番ですか?」

「ナンデスカソレー」

「はい、じゃ次が本番ね」

またホールに戻っては本番の人生を過ごす。
その回数はどんどん増えて行った。

だんだんと悪さをするようになり、
この先の人生が絶望しかないとわかると自殺した。

悪さと呼ばれる悪さを体験し尽くし、
人生にもそろそろ飽き始めたころ。

「っし、そろそろ、本当に最後の人生でも送るかな」

銀行強盗と無差別殺人をしまくったあと、自殺。
もう悪事に対しての罪の意識はすっかり失っていた。


「リハーサルですか? 本番ですか?」

「本番です」

「わかりました、頑張って」

また人生がリセットされた。
今度の人生は「良い子」で過ごすと心に決めていた。

これまでの人生が悪事の限りを尽くしていたので、
本番とあればきっと査定されるのはこの人生。

「よし、絶対に天国にいってやるぞ!!」

この人生の充実はもちろんだが、死後のことも踏まえて
人助けはもちろん、思いつく限りの良いことをしまくった。

気が付けばもう寿命はすぐそばに迫っていた。

「おじいちゃん!」
「おじいちゃん死なないで!!」

「もう……ワシはダメじゃ……。
 でも、ぜんぜん死は怖くない……」

「どうして? おじいちゃん!」

「だって、ワシ……めっちゃ良い事しまくったから……」


ピーー……。


「おじいちゃーーーん!!!」



次に目を覚ましたのは、いつものあの空間。

「おかえりなさい、本番人生終了ですね」

「はい。本番というからには、
 本番人生で天国・地獄行きを決めるんですよね?」

「察しがいいですね。その通りです」

「ふふふ、さぁ、思う存分査定してくださいな!!」

俺の最後の人生はボランティアを腐るほどやった。
寄付だって、24時間マラソンだってやった。

行き先はもちろん……。

「文句なしの天国ですね」

「よっしゃああああああああ!!!」

計画通り。
さんざん人生を経験してよかった。
何が「悪く」てなにが「良い」のかわかる。

俺は光り輝くまばゆい天国の階段に足を載せた。


「あ、ちょっと。違いますよ、あなたはこっちです」


スーツの男はまがまがしい地獄への階段を指差した。

「……え? 待ってください。
 俺は間違いなく天国行きなんですよね?」

「はい、最後の人生を見た結果
 ケチのつけようがない完璧な善人でした」

「それじゃあ天国に……」