人間保健所いきのイケメン
「ああ」
「なんで俺モテないのかなーー」
「知るか」
「俺、思うんだけどモテない原因は世界にあると思うんだ」
「どうした突然」
「昔はおかめ納豆の顔みたいなのが美人ってわけだし、
もし、俺が昔の時代にいけたらモテモテなわけだよ」
「そんな発想してるからモテないんだよ」
彼女がいる友達は余裕ぶっこいて高みの発言。
俺も負けじと合コンやらに参加してみるが効果ナシ。
結局、彼女ができないまま30歳を迎えた。
「はっぴばーすでー俺ぇ~~。
はっぴばーすでーとぅーみーー」
情けなさと愛しさと心強さを感じながら、
29歳のろうそくを吹き消し、30歳の門出を祝った。
そのとき。
「人間保健所だ!! おとなしくろ!!」
サスマタを持った男たちが家に入って来た。
俺は体に感じる危機を察知し慌てて家を出る。
「なんだなんだ!? 人間保健所ってなんだよ!?」
道路の向こうからもどんどん男たちがやってくる。
その眼は、人里に現れたクマを駆除しに来てる業者そのもの。
「ま、待ってください! 人違いです!
俺はなにも悪いことしてま……ぎゃーー!」
俺の必死の抵抗むなしく、あっさり男たちに捕まった。
連れてこられた先は牢屋にも近い監獄。
幸いなのは、牢屋よりも施設と掃除が行き届き
さしずめスーパー個室牢屋といったところ。
「あのぅ、ここはどこなんですか?」
「ここは人間保健所。
30歳になっても彼女がいない人間は
ここで拾ってくれる人が来るまで待つんだ」
看守の言葉に嫌な予感はしていたが、聴くしかない。
「もし、拾ってくれる人がいなかったら……?」
「処分する」
「ひえええええ!?」
トイレの上でおしっこをちびった。
ちまたでは「用を足す」というらしい。
拾ってくれる人もなにもいないから、
30歳になってもまだ彼女ができないわけで
俺が保健所に捕まったからと言ってきてくれる人は……
「そ、そうだ!! ユミちゃんなら!!」
ユミちゃん。
一番最近の合コンで一緒になった子。
話の波長も合って、気さくで話しやすい。
俺のサラダを取り分けてくれたり、
少なからず俺に好意はあるにちがいない。きっと来てくれる。
「処分なんて……されてたまるかぁ!」
保健所生活も1ヶ月を過ぎたころ。
処分が明日に迫っていた。
「もうだめだ……どうせみんな俺のことなんて忘れてる。
だから誰も来ないんだ……うう……」
壁にもたれかかって人生を後悔している時、
向こうから足音が近づいてくる。
かつーん、かつーん。
この音ハイヒール……女性だ!
「ユ……ユミちゃん!!」
来てくれた。ユミちゃんは来てくれた。
俺の目には彼女の背中に天使の羽が見える。
「ありがとう! 俺を拾いに来てくれたんだね!!
俺はずっと信じていたよ! あの飲み会の日から!!」
「は? ちげーし」
「え?」
「なに勘違いしてんの? あたしは別の保健所人を探しに来たの」
「うそうそうそ!? 待って待ってぇ!」
ユミちゃんは俺の隣の牢獄の男を気に入り、
保健所の外へと消えていった。俺の希望とともに。
「ああ、もう終わりだ……もうだめだ……」
絶望していても時間は容赦なく刻まれる。
気が作るころにはすでに処分の時間へと達していた。
「出ろ」
看守に連れられて静かな一室へと連れてかれる。
どなどなどーな……。
「では、処分をはじめる」
「あの!! ひと思いに一瞬でお願いします!!」
「……わかった。目を閉じていろ」
俺は目をつむって静かにその瞬間を待った。
待った。
待った。
待った……?
「処分終了だ」
「あれ?」
目をそっと開ける。
どうやら天国でも地獄でもないらしい。
「死んで……ない? 処分したんですよね?」
「ああ、もちろん処分した。
君のような人間の価値がわからない時代を処分した」
「へ? それってどういう……」
「過去と未来の中で、君の顔が最高だとする世界に来た。
前までのミスマッチの世界は処分した」
やっと状況がわかった。
と、同時に俺は嬉しさが体の中に満ちた。
「それじゃ!! 俺はこの世界で……!!」
「モテモテってことですな」
「っしゃああああああああ!! ちょっと外行ってきます!!」
俺を認められない世界は処分された。
これからは俺が主人公の世界になるはずだ!!
街に出ると。俺は期待通りのモテモテ具合だった。
が、数分後すぐに保健所へ戻って来た。
「あ、あの!! どうしてみんな気色悪い化粧と
目が8個もあるんですか!?
あんなのにモテても全然嬉しくないですよぉ!!」
「それがこの時代の"カワイイ"ですから。
あなたが"カッコイイ"と思われる時代と同様に
"カワイイ"も変化するんですよ?」
「もう一度処分をお願いします~~~~!!」
俺の嘆きは聞き入れられず、そのまま女たちに連れて行かれた。
その後のことはもう書きたくない。
作品名:人間保健所いきのイケメン 作家名:かなりえずき