金のエンゼルから目を離すな!
「お菓子のオマケだろ」
「バカ、ちげーよ。本物だよ。本物の金のエンゼル。
妖精みたいなのがふわふわ飛んでいるんだよ」
大学の食堂で何を言っているんだ。
俺は耳を疑った。目も疑った。
「エンゼルを最後まで目を離さずに追いかければ、
幸せが訪れるんだよ」
「幸せねぇ……」
「なんでも、最後まで終えた人は血の涙を流すらしい」
「そんなに!? 幸せすげぇな!!」
どんな幸せだ!?
俺が想像しうるものの10倍くらいの幸せだろうか。
「でも、そんな話をどうして俺に?」
「金のエンゼルは神出鬼没ですぐに見失うんだ。
だから、仲良し4人組で結託して追おうってわけだ」
「なに、そんなに幸せになりたいの?」
「「「 なりてぇよ!! 」」」
友達3人が声をそろえて真っ向から言った。
「オレなんて買ったばかりの車盗まれたんだぞ!」
「僕の親はお金のかかる病気になってるし!」
「俺なんて結婚を決めた彼女に逃げられたんだ!」
「み、みんな大変だな……」
とか言っているさなか、友達の肩越しに金のエンゼルが見えた。
「あ」
エンゼルはふわふわと壁をすり抜けて大学の外へと出ていく。
まずい、このままでは見失う。
「ご、ごめん!! 急用思い出した!!」
食堂をかけだしてエンゼルを追う。
よかった、まだ見失っていない。
エンゼルは不規則に上へ下へ、右へ左へと飛び回る。
一瞬で消えたりすることはないものの
これを見失わずに追いかけるのは酷だ。
「でも、絶対に見失うもんか!!
血の涙を流すほどの幸せ、手に入れてみせる!!」
エンゼルは大学を出て今度は道路の方へと進んでいく。
障害物をすり抜けるエンゼルには道路の横断もへっちゃら。
「くっそ!! これ通れってのかよぉ!!」
横断歩道まで迂回したらエンゼルを見失う。
今、こうしている間にもエンゼルは道路を渡って離れていく。
「ああああ!! ちくしょう! 幸運よ、味方してくれ!!」
キキーーーッ!!
「バカ野郎!! 道路に飛び出してんじゃねぇぞ!!」
「すみません! 急いでるんで!!」
元々交通量が多い道路なのであっという間に渋滞発生。
普通なら罪悪感などで辛くなるはずだが、今はエンゼル。
「いた!!」
道路を渡ったエンゼルは、今度は気ままに住宅街へ。
「まずいっ! 民家にでも入られたらもう追えなくなる!!」
慌ててエンゼルとの距離を詰める。
しかし、エンゼルの行き先は民家よりも危険な聖地。
教会へとすり抜けて入っていった。
「うそおお!? ここに入れってのかよ!?」
中から声がうっすら聞こえてくる。
明らかに「使用中」だとわかるものの、エンゼルの幸せのためだ。
「ちょっと待ったぁ!!」
教会のドアを開けると、金のエンゼルを探す。探す。探す。
わかったのは金のエンゼルがもうここにはいないことと
タイミング悪く結婚式のさなかだったこと。
「うああああ!! ごごごごっ、ごめんなさいぃぃ!!」
指輪交換まで進んでいる式をぶち壊してしまった。
でも、エンゼルさえ見つければ、きっと幸せにしてくれる。
これくらいの失敗すらも吸収できるくらいの幸せを。
教会を出て外に出たとき、
どんっ。
「あ痛たたたた……」
ふたたびタイミング悪くおじいちゃんとぶつかった。
さらに、なんか地面にうずくまって痛そうにしている。
でも俺はそんなことより、金のエンゼルが……。
「いた!!!」
まだエンゼルは離れていなかった。
今ならぎりぎり追って間に合う距離だ。
倒れたおじいちゃんにはどこからか若い男がやってきた。
「おい! 何もしないで立ち去る気か!?」
「そんなつもりはないんです!! でも急いでて……あああ!!」
金のエンゼルがどこかへ行ってしまう。
「すみませんでした! ごめんなさい!!
後でしっかり謝りますからぁ!!」
俺は逃げるように金のエンゼルを追って走った。
背中越しに男の的確な指示が聞こえた。
「見つけたぞ! 金のエンゼル!!」
小高い丘でエンゼルはついに動きを止めた。
ここまで目を離さなかった自分をほめたい。褒めちぎりたい。
ついに金のエンゼルをその手に収めると、ものすごい高揚感に襲われた。
「さぁ、エンゼル!! 約束通り幸せにしてくれ!!」
エンゼルはにこりと笑って答えた。
「もう幸せにしましたデスよ」
「……は?」
「もう幸せにしましたデスよ?」
「待て待て待て!! なに仕事した感出してるんだよ!
俺ぜんぜん幸せになってないよ!?」
金のエンゼルにクレームをつけていると、
友達3人が幸せまっただ中の表情でやってきた。
「幸せだぁ。もう二度と戻ってこないと思っていた車が……。
道路を横断して渋滞を起こされなきゃ、見つからなかった」
「本当に幸せだ! 結婚式が台無しになったおかげで
こうして、また彼女と交際できるようになったんだから!」
「ああ、本当に幸せだ……。病気だった父親がぶつかって
ソイツが立ち去るようなクズだったおかげで
偶然通りかかった神の手を持つ医者に救われるなんて!」
「「「 本当に幸せだ!! 」」」
友達3人のえびす顔を見て察しがついた。
「ま、まさか……幸せになるのって……」
「金のエンゼルを最後まで追いかけたら、幸せが訪れるデス。
でもそれは追いかけた道中にいる人に訪れるデス♪
誰も追いかけた人が幸せになるとは―――」
エンゼルの言葉に、俺は血の涙を流した。
作品名:金のエンゼルから目を離すな! 作家名:かなりえずき