2重オークションのオマケ達
現在30歳。
普通に生活していれば当たり前に結婚できると思っていた。
でも現実はそんなことはなく。
今日も持て余した金をネットオークションで溶かしていた。
「お届けものでーーす」
「あ、来たか」
先週、オークションで買ったゲームが届いた。
さっそくゲームしようと思ったが、箱にはまた別のものが入っていた。
【電車で席が空く】
「なんだこれ? 短冊か?」
オークション出品者が間違って封入したんだろうか。
翌日、いつもの満員電車で変化が起きた。
「空いてる……!」
10年近く同じ時間の電車に乗っていて、こんな瞬間はなかった。
俺の前の席が「座ってください」とばかりに空いている。
すぐさま座って、安息の時間を満喫した。
思い出したのはゲームに入っていたあの紙だった。
その日の夜、家には品物が届いた。
ちょうどオークションで落札したDVDだった。
「また入ってる!」
【髪が伸びる】
「……び、微妙だ」
なんか全然嬉しくないようなオマケだった。
でもしばらくしても俺の髪は全然伸びてこない。
「やっぱりただの偶然の一致だったのかな。
最初の電車の件でちょっと本気にしちゃったのか」
そう思って押入れを空けた瞬間。
「うわぁぁ!!」
腰が抜けた。
昔拾ってきた人形の髪が、地面につくほど伸びていた。
「伸びるって……こっちかぃ!!」
最近髪が薄くなり始めた俺としては残念だが、
やっぱりオークションのおまけの効力は確実だとわかった。
それからは、オークションの使い方がガラりと変わった。
「これのオマケは……安売りのシーンに出くわす……、買いだな。
こっちのオマケは、あたり棒を引く……いらないな」
部屋には必要最小限のものばかりだったが
今となってはこけしから読まない本、ラジカセなど
絶対に使わないようなものもどんどんあふれ始めている。
これもそれもどれも、おまけのため。
詳しく調べればオークションのおまけで何があるかわかる。
どれを競り落とすかはそれ次第だ。
「な、なにぃ!!?」
などと語りながらネットサーフして、
今までのおまけを吹っ飛ばす特上の商品があった。
全自動卵わり機
オマケ:【美人の嫁がもらえる】
「こ……これは欲しい!!」
卵わり機なんて粗大ごみ直行だが、嫁がついてくるとなると話は別。
すでにおまけを見越して落札件数はものすごい数に。
「くそ……!! こんなところで競り負けてたまるか!!」
絶対にこの卵わり機を競り落とさなければ!!
欲しいのは嫁だけど!
「君、最近よく働くねぇ。急にどうしたの?」
「最近の仕事ぶりは目を見張るものがあるよ」
「いったい何かあったのかい?」
「俺は、出世して金が欲しいんです!!」
それこそ死に物狂いで仕事をした結果、俺は大出世。
上がった給料はそのまますべてオークションにぶっこんだ。
>あなたが現在の最高落札者です
「お願いだ……もう誰も入札しないでくれぇ~~……!」
祈るようにパソコンの前で手を合わせる。
このままあと10分すぎれば、俺の悲願がかなう。
残り5分。
残り3分……
残り1分……………
>おめでとうございます! あなたが落札者です!!
「うおっしゃあああああああ!!!」
思わず立ち上がって空にほえた。
嫁が手に入る嬉しさと、自分の努力が肯定された喜ばしさ。
それが津波のように一気に押し寄せてきた。
しばらくして、卵わり機は到着した。
1回試してすぐに次の粗大ごみの日に出された。
【美人の嫁がもらえる】
「まだかなまだかなぁ~~……」
うきうきしていたが、一向に来ない。
「ま、まさか……この商品のオマケだけウソとか!?」
怖くなって外に出た瞬間。
サングラスの女性とぶつかった。
「すみません、私ったら道に迷ってしまって……」
「こちらこそ、周りが見えてなくて……」
後に聞いたら、その人は女優だったらしい。
過去形なのは今は俺の妻として女優を引退したからだ。
「お前みたいな美人と結婚できて本当に幸せだよ」
「うふふっ、私もあなたと結婚できて嬉しいわ」
オマケはやっぱり確実だった。
こんなきれいなお嫁さんがもらえるなんて、俺は幸せだ。
「でも、どうして俺みたいな人と結婚する気になったんだい?」
「ええーーそれはね……」
「あなたとの結婚のオマケが、玉の輿ってあったもの♪」
妻はそっと紙を見せた。
作品名:2重オークションのオマケ達 作家名:かなりえずき