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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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変えろ! 自分家庭教師!

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「悟志、部屋から出てきて。
 いつまでも部屋にいたらダメよ」

「うっせーババア!」

引きこもり生活はどれだけ続いたのだろうか。
社会人1年目で社会の厳しさを学んで部屋に籠城。

今はこの城の中でぬくぬくと暮らしている。

「悟志、今日はあなたに会わせたい人がいるの」

扉の向こうで母親の声がする。

「はあ!? 俺は誰とも会いたくねぇんだよ!!」

すると、扉がガチャリと開いて覆面のスーツ男が入って来た。

「な、なんだよお前は!?
 それに鍵は……1つしかないのに、なんで入ってこれるんだ!」

「どうも、私は人生家庭教師です」

この部屋の鍵は俺が1つだけしか持っていないのに
やすやすと入って来た覆面男は人工ボイスでとにかく気味悪かった。

「人生家庭教師?」

「ええ、あなたの人生を改善するためにやってきました」

「あぁ? そんなの頼んでないね」

「でも女の子と手をつなぎたくないですか?」
「ぐっ……」

「本当はこんな生活も嫌なんでしょ?」
「ぐぐっ……」

「というわけで、私が来たんです」

「わかったよ! ちくしょう! 何をすればいいんだ!」

覆面男は俺の心を見透かすようにずばずば本音を引き出す。

俺自身、強がってはいたけどこの生活に無理は感じていたし
どこかで変えなくちゃという危機感は感じていた。

「いきなり大きく変わることはできません。
 まずは服装を変えてみましょう」

「は? 服装? 着る服はあるんだけど」

「スウェットの上下でしょう?
 もっとちゃんとした、おしゃれな服にしてください」

「なんで知って……まあ、わかったよ」

それくらいの小さな変化ならまだいい。
俺はこぎれいな服を買って帰って来た。
家に帰ると、これまでの服が勝手に処分されていた。

「ちょっ……なんで捨てるんだよ! 部屋着だぞ!」

「買ってきた服があるでしょう? これも改革です」

買ってきた服を着ると、少ししゃんとした気がする。

「では、次は誰かと話しましょうか」

「……なんでだよ」

「あなたは長いこと引きこもって人とのつながりがありません。
 だから少しづつ人とのつながりを体になじませるんです」

覆面男の指示する場所に行くと、
ぜんぜん知らない人たちが待っていた。

でも、どうやら同じ趣味の人たちで話が合った。
初対面だったのに旧友に話すような感じで打ち解けた。

「……どうです? 少し人間らしさ、戻って来たでしょ?」

「ああ、たしかにそうかも。
 服を買ったから外にも出やすいし、
 人と話すことにハードルを感じなくなってきた」

「では、次は短期バイトをしましょうか」


それから覆面男の少しづつステップアップする人生家庭教師で
俺の生活はどんどん改善され、ついには復職するに至った。

社会人としてこれから普通の自分を取り戻せる。
そう思っていた。

「うあああ! ちくしょう! 仕事なんてするもんか!!」

「どうしたんですか? 今日が初日でしょう?」

「みんな……みんな見下しやがって!!
 俺が引きこもりだって……ちくしょう!」

初日で浴びた洗礼は、"異物による嫌悪"そのものだった。
挫折せずに就職した社員にとって、俺のような引きこもりは完全な異物。

陰口はもちろん、露骨に距離を取って接するのがわかった。
とにかくそれがつらかった。

「なにが復職だよ!! そもそも俺は社会不適合者なんだ!
 人生家庭教師なんかいても無意味だったんだ!」

「そうやって諦めたらまた前と同じですよ!!」

「お前に何がわかるんだよ!!
 いつもいつも高いところから指示出してるだけのくせに!!」

カッとなって俺は覆面男のマスクをはいだ。
その顔を見て、俺は凍り付いた。


「えっ……お、俺……!?」


マスクの下には、少し老けた俺がいた。

「しょうがないですね、人生家庭教師とは未来の自分。
 このまま引きこもり生活を続けた先の自分の姿なんだ」

「それじゃ部屋に入れたのも、俺のことも知ってたのも……」

「そんなことより、このまま元の生活になれば俺みたいになってしまう。
 10年後に親が倒れたらなにもできなくなるし、
 頼れる人もいない。天涯孤独の身だぞ!!」

「ぐぅ……」

「変えるなら今しかないんだよ!!
 逃げてたら何も変わらない! 追い詰められたから動いたんじゃ遅いんだ!」


「だ、だったら未来の力でなんとかしてくれよ!
 ギャンブルで当てるとか、秘密道具でなんとかするとか!
 未来からタイムスリップしてきたんなら、
 現実世界を変えられる道具のひとつやふたつあるだろ!」

「…………わかった、これを使おう」

「あるんじゃねぇか。最初からそれを使えよ」

覆面男は小ぶりのハンマーを出した。
とても未来っぽさは感じないが……。

 ・
 ・
 ・

翌日、俺は普通に仕事に戻った。

「やぁ、お疲れさま、悟志くん。
 今日の仕事はこれなんだけどお願いできるかな?」

「はい! よろこんで!!」

「頼もしいね、なんだか昨日よりも元気になってるじゃないか。
 なにかいいことでもあったのかい?」

「いえ、自分の過ちを片付けただけです」

俺は上司から仕事の資料を受け取りデスクに戻った。
すると、隣の同僚が声をかけた。


「悟志、なんかお前ずいぶん老けたな?
 10年くらい歳とったように見えるぞ?」