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結婚式哀愁

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純白のドレスを着た姉は、みたいな表現が全く似合わない花嫁だった。にこにこ笑って、お決まりらしい最後の両親への手紙の内容も、小学校の卒業式にむけて女の子が提出する作文みたいだった。それでも、式や披露宴では立派に主役をやりきって、友人や知り合いを含めて百人近かった出席者は本当の笑顔や涙で新郎新婦を祝福していたと思う。 
誰かの名前を頭に思い浮かべる時に、「私の」という言葉を頭につけることは少ない。もちろん、知人、友人、母親、父親、祖父母、弟など、固有名詞じゃなく自分との関係を表す言葉を口にするときは、「私の」が必要であることもある。ただ、いわゆる所有欲とまでは言わないけれど、それに似た感覚で使っているのかもしれない「私の(大好きな)」という言葉が、その人を思う時にどうしても必要である時があることを姉の結婚式で知った。
 結婚式と披露宴は、家族であり姉である涼ちゃんが、家族や姉妹と言う関係の中で私に見せてきた顔や姿が涼ちゃんの全部ではなかったのだ、という当たり前のことを圧倒的に、一瞬で感じてしまった場でもあった。今まで知らなかったその人の姿を、その人以外の何ものかによって知る瞬間は、あたたかい安心と、空高く風が冷たい秋の空気に同時にさらされるような瞬間だった。今までの関係の中から消えるものよりも、これから紡ぎだされ積み重ねられていくものや関係の方が大きいことくらい、考えなくても分かるはずなのに、どうしてこんな気持ちになるのだろうと思う。学校の卒業式と同じ心理なのだろうか。せっかく濃い化粧したのに涙でどんどん薄くなっていく母親の顔を見ると、その涙の内訳に今の私が正しく共感できることはないのだろうなと思う。どうしても湧き上がってしまう淋しいという気持ちと同時に涼ちゃんに対して呼びかける心の声、「私のお姉ちゃん」は、淋しい気持ちとは逆に永遠に消えないと思う。
作品名:結婚式哀愁 作家名:豆田さよ