ルパン三世~赤い十字架~
Episode.5 機械仕掛け
パチパチと木が弾ける音に、Kはゆっくりと重い瞼を開いた。
「お目覚めかい?」
暗い森。ほんのりと明るい焚き火。森の入口にはルパンの小型車と次元が乗って来たであろうジープが木々で隠されている。
傍らでルパンはカップヌードルを片手にKに眼差しを向け、相棒である次元は少しムスッとした表情でKを睨んでいた。
「アイツらは…」
「とっくに片付けたさ。あのヒッチハイカー…いや、司令塔って言うべきか?アレを壊した途端よ、ぴーぴー飛びやがるドローンは落ちちまったよ」
「そうか…やはり」
「で?お前さんなにモンだ。いけすかねえ」
次元が煙草を噛みながらKに問い詰め、腰のホルスターに手をあてがった。
「おいおい、次元。まちなって」
「コイツは血の臭いがプンプンしやがる。気に食わねえ…どこの犬ころだ」
殺気だった空気にルパンはやれやれといった表情を浮かべる。
「あのなぁ、次元よ。コイツは俺を救ってくれたんだぜ?まあよ、素性は怪しいもんだがな…話してくれっかな?不思議ちゃんよ」
「…アンタを、ルパンを暗殺する指令を受けた。非情な殺しをするアンタをね」
「非情…ね。それはそれは悪名高くなっちまったもんだ。俺様もよ」
「なんだそのデタラメな悪名は。ルパン、なんでこんな奴に気をかける」
「わかんねえ」
「なんだそりゃ…ったく」
次元のため息をかき消すようにKは口を開く。
その顔には怒りとも哀しみともつかない何かが浮かんでいた。
「ルパン暗殺指令。それは…フェイクだった。俺は仲間に嵌められた。KGBに」
「ほう、KGBときたか。で?なんでお前さんが狙われる」
「考えられるのは、俺の目だ」
「目?」
Kはカッと目を見開いた。眼球をよく見ると通常の瞳の輝きではない光がキラキラと炎の光に反射する。
「そりゃあ…」
「高性能ナノマシン。これを欲しがっているのかもしれない」
「なんでお仲間がそれを欲しがる?テメェのお膝下に置いときゃ奪う必要もないだろうが」
「何故かは分からない。自分が何をしたのか、なんでアンタを…ルパンを助けようと思ったのかも…しかし、組織には知らせていないと言うのに」
「機械仕掛けなんざ話が飛びすぎて訳が分からねぇ、言ってる事もな。文字通り頭のネジが緩んでるんじゃないのか?」
そう言った次元を機械の目と生身の眼球でKは睨む。
「落ち着けっての。で?そのお目目にはどんな秘密が?」
「KGBの極秘ファイルがこの目にはある。現在のKGBのトップがあるマフィアと繋がっている情報」
「ほう…恐らく狙いはそれか?そのマフィアってのは?」
「スコレリーファミリー…」
ルパンは鋭い目で、Kを見つめた。
「スコレリー…俺の亡霊も一枚噛んでるってわけか。繋がったな」
「亡霊?」
Kと次元が二人揃って声を上げた。
「変なとこ息ピッタリじゃないのよ、お二人さん」
「はぐらかすなルパン」
「まあ…昔話さ。いずれ話す。それにしてもよ、何でお前さんの目にそんなファイルがあるんだ?腑に落ちねぇ」
「ある任務遂行中、データベースをハッキングした。俺は所詮実行部隊。上が悪に手を染めようが関係ない。だから組織には黙っていたんだが…」
「何でそれがバレた?心辺りは?」
「ある女にだけ話した。A(Assassin)…信頼出来る仲間に」
「けっ…女か。機械も女には鈍いらしい」
次元は深いため息をつく。
散々女に騙されてばかりいるルパンを見ているせいだ。
「不思議ちゃんも隅に置けないねぇ、あ…ラーメン伸びちゃった」
暗い森の夜に三人の影がゆっくりと炎に踊るように揺れた。
作品名:ルパン三世~赤い十字架~ 作家名:Kench