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忙しいビジネスマンのための1ページ小説「ペテン師とマダム」

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「なあ、125丁目のババア、かもか?注意か?それともストップか?」
 同じ同僚のウイックハムが言う。
「ありゃあ、格好のかもだ。おまけに金をゴミのようにもてあましてやがる。言っとくけど、俺の客だからな」
「チッ、運のいいやろうだぜ」
 マリファナなんか売ってるクズなんざ、このマンハッタンにもクソみたいに溢れかえっている。
 でも俺達の仕事なんざ、ほとんどギャングと同じ、生命保険会社のはしくれ。
“あなたのスローライフを充実させます”
とか調子のいいことを言って、ようは、孤独と不安を抱えている老人相手に家族のような付き合いをし、多額の金を頂戴する。孤独と不安に付け込んだ仕事だ。でもその額といったら年間一万ドルから、5万ドルだ。どのじいさん、ばあさんが金をどれだけ持っているか見定めて金額を設定する。
 そしてフレッドは格好のかものバーネット宅を訪れる。豪邸の様な家、サルビアの花が咲く広々したガーデン、ドアの前に立ち、そのチャイムを押した。
「バーネット様おはようございます。庭の雑草がのびているようですね。あれでは駄目です。栄養が皆雑草の方にとられてしまいます。バーネット様もし、サルビアが枯れてしまったら……」
「ありがとう。フレッドいつも助かります。若いのにいつも私のような、年寄りを大切にしてくれて、本当ありがとう」
「いいえ。私を息子と思っていいんですよ。何でも遠慮なく言って母さん」
「何という嬉しい言葉。あなたはまだ若い、ずっとこの会社で働いてくれるの?ずっと私の家に来てくれるの?」
「それは……」
「どうしたの?」
「いえ何でもないのです」
「いいえ、思っていることは何でも言って。困ってることでもいいのよ」
「実は医学部に行きたいのです。でもその金がなくて……勉強はできるのですが、なんせ貧乏の出なもんで」
「医学部に?」
「いえ、いいんです。私なんかが医者になろうなんてそもそも間違いなんです。忘れてください。つまらない話をしてすいません」
「いくら必要なんです?」
「えっ?」
「医学部の入学金、学費、もろもろのお金いくら必要なんです?」
「それは、三十万ドルくらいは……」
「分かりました。私が三十万ドル用意しましょう。頑張って医学部に行って、医者になってください」
「いいんですか?マダム、いえ、母さん」
「あなたが幸せになれるのなら……」
「母さん」フレッドはバーネット夫人の身体に抱きついた。
 そして長い抱擁をした。
「ああ、フレッド、温かいからだ、この温もり嬉しいよ」
「フレッド、できたら毎日私にハグをしてくれないか?それだけでいい」
「もちろん喜んで……でも母さん僕はもっと母さんの側にいたい。会社だと会社が別の宅へ行けと言えば、母さんと別れなければいけない。母さんと離れたくない。僕を専属で、個人契約で雇ってもらえますか?」
「もちろん個人契約の方が私も頼もしいわ。お金は用意します。これからも毎日私のところに来て」
 フレッドはバーネット宅を跡にした。

「ちょろいもんだぜ。ばあさん、本気で信じてやがる。医学部に入る頭脳なんてもっちゃいねえよ。中学だって卒業してねえんだ。でも、こう、頭はきれるけどな。ヘッヘッちょろいもんだぜ」
 そしてフレッドは毎日、バーネッド宅を訪れた。
「母さん」
「フレッド」
 そして毎日、毎日、バーネッド夫人と抱擁し、今日もバーネッド宅を離れた。
 フレッドは、
「ばあさんとハグするだけで、金が舞い込んでくる。こんな楽な仕事はねえな。そうだ。もう四月だ。医学部に受かったって言ったんだ。学生証も作らないとな」
そう言ってフレッドは印刷会社にいって、学生証を作るよう頼んだ。
「この紙と同じものをプラスチックで作ってくれ。写真はこれだ」
 印刷会社の人は怪訝そうな顔をして、
「でも……これは……」
「いいから言う通りに作れってんだよ。金なら出すって言ってんだろ」
「……ええ、まあ分かりました」
 そしてできた医学部の学生証をバーネッド夫人に見せ、さも医学部生活を楽しんでいるかのように話をした。
 そして三十万ドルも受け取った。
 その間もフレッドは毎日バーネッドの家を訪問した。
 そんなある日、バーネッド宅に入ろうとしたとき、
「フレッド・ギルバードだね?」
「何だよ。お前。だとしたら何だって言うんだよ」
「警察だ。署まで来てもらおう」
「何だってんだよ。チクショウ」
 警察署について、
「学生証を作るように頼まれた印刷会社から通報があり、お前の行動を追っていた。三十万ドルの金を受け取ったところも確認した。盗聴器もバーネッド宅に仕込んでおいた。もう逃げられない。バーネッド夫人に今から証言してもらう」
「クソッ!こんな結末かよ」
 そして警察官は電話をしていた。
「何だって?」警察官は言った。
「そんな馬鹿な……」
「どうしたんだよ。マッポさんよお。俺をブタ箱に入れる手筈でもできたのかよ」
「そうしたいんだが、今、バーネッド夫人から釈放してくれ。お金ならいくらでも出すと」
「何だって?どういうことだ?」
「こっちが聞きたいよ。クソッ、運のいい野郎だ。次はねえぞ。今度こそお前をブタ箱にいれてやるからな」
 フレッドは警察署を跡にした。
「どういうことだ?あのばあさん。呆けちゃったのか?」
 そしてフレッドはバーネッド宅を訪れた。
「どういうつもりか分からないがバーネッドさん、とにかくお礼をしなくてはいけない。聴いただろうが、俺は医学部にもいっていない。金は返すのか、それとも……」
「渡したお金は返さなくて結構です。それともあなたはお金に困っているの?まだ足りないの?」
 フレッドは黙った。
「ちゃんと家はあるの?学校は行ってるの?仕事は……」
「そんなことあんたに心配されなくてもやっていけるよ。あんたどこまで、お人好しなんだよ!」
 そう言ってフレッドはバーネッド宅を離れた。
 そして125丁目から、65ストリートのアッパーウエストからアッパーイーストまで向かった。ビールを買って、一人、マディソン街をふらふら歩いた。
一人で歩きながら、
「なあ、ばあさんよお、俺なんかは本当薄汚れていて、何でそんなことも分かんねえんだ。おれっち親に捨てられてんだぜ。本当あんたまともじゃねえぞ。本当まともじゃねえ」
「ばあさんよお。情なんて言葉なんざ、ヘドがでるけど、あんたと一緒にいた一年間、金のやりとりなんか関係なしに、悪くはなかったぜ。チクショウ、何だってクソみてえな人生だ」
「あんたらみたいな世界でもっと笑って暮らせたらきっとそりゃあ、さぞかし楽しいんだろうよ。金なんて要らねえ。もっとまともな家庭に生まれたかった。血の通った温かい家庭に生まれたかった」
 フレッドはマディソン街で泥酔しながら、
「クソッ何だってんだよ」
 そう渇いた声で、悲しく叫んだ。
                            (Fin)