未来号外の配達人
「号外で~~す! 号外でーーす!」
配られている新聞を見ると、日付は8月30日……明日だ。
8/30
『動物園でパンダの赤ちゃんが無事出産』
「あの、これ印刷ミスですか? 日付が明日ですけど」
「いえいえ、これは未来号外なんで合っています。
これは未来の出来事をお伝えしているんです」
翌日、号外の通りにパンダの赤ちゃんは出産し
それが朝のニュースで何度も報道された。
「あの号外ホンモノだったんだ……!」
がぜん興味が出たので、同じ場所に行ってみると
昨日の男はまた号外を配っていた。
「あの! 俺も号外を配りたいんですが!」
「本当かい!? 本当にかわってくれるのかい!!」
男は嬉しそうに制服を脱いで俺に渡した。
高額なアルバイト代金の説明や、バイト内容の説明を簡単にすると
そそくさと行ってしまった。
「なんで逃げるように去ったんだろ……」
気にせずに、俺は高額アルバイトを行う。
ハンドベルを鳴らして注目を集め、号外を配る。
「号外でーーす! 号外でーーす!」
8/31
台風が最接近! 日本海側でも大荒れの天気
それからしばらくすると、バイトもすっかり慣れた。
もともと複雑な仕事ではなかったうえ、バイト料金は高額。
拘束時間も短いので、文句もわいてこなかった。
「さて、今日もバイトするか」
届けられている未来号外を持ち、町へ向かったそのとき。
ふと目に入った号外の内容に手が止まった。
9/22
車が歩道に突っ込み無差別殺人! 死傷者22人!
「これ……近所じゃないか……!」
俺の近所は、友達が切り盛りしているお店もある。
ただでさえ田舎で人通りもまばらなのに、こんな号外配ったら……。
「ますます人が来なくなっちゃう……」
その日、俺は初めてバイトをさぼった。
これまで未来号外は予言を外したことはない。
俺は号外の内容に書かれている場所に向かって、
立ち入り禁止のカラーコーンやビニールテープを張っておいた。
翌日、事件は起きた。
『こちら現場です! 立ち入り禁止のテープを破って
車が歩行者を次々にはね飛ばした生々しい跡が残っています!
立ち入り禁止とあったせいで、歩行者が迂回し
迂回して立ち往生した先でひかれたもようです!!』
「うそ……だろ……」
俺の根回しは裏目に出た。
立ち入り禁止にしたことで、歩行者が別の場所で渋滞になった。
そこめがけて車が突っ込んできて、未来そのままになった。
俺の行動すらも、未来号外には織り込み済みだった。
「い、嫌だ!! もうこんな仕事嫌だ!!」
やっと最初のバイトが嬉しそうにした理由に納得した。
未来号外人は良いニュースも悪いニュースも伝えなければならない。
それは誰よりも早く悲劇を知ったあげく、
どうしようもない無力さを何度も味わわされることだった。
けれど、号外の発行元もわからない。
仕事を辞める方法まで聞いていなかった。
そして、無慈悲にも毎日俺の下には号外が届いてくる。
9/24
地球に隕石が接近して地球が壊れる
「ああ……そんな……」
もうバイトがどうとかいうレベルじゃなかった。
未来号外は一度も外したことはない。
うさんくさい占い師の破滅論ではなく、客観的な事実。
こんなもの配ったら町は大混乱か、俺が八つ当たりされるか。
とにかく誰しも平常心ではいられない。
俺はもう号外を配ることも放棄して家で静かに過ごしていた。
「こんなの配っても混乱させるだけだ……。
どうせ明日世界は終わるのに、バイトもなにもない……。
未来号外の未来は確実なんだから……」
未来を変えるために努力してもムダ。
どうせ何をしても未来号外は変わらない。
「……いや、待てよ!? 未来号外は変わらない。
だったら未来号外を変えてしまえば!!」
俺は届いた未来号外の内容をすべて差し替えることにした。
明日、地球が滅亡する未来なんてまっぴらだ。
9/24
地球に接近した隕石がそれて、その影響で地球の緑が復活
「できた!!」
仮にすでに隕石が接近していたとしても、
それ込みでいいニュースにできる。完璧だ。
俺はすぐさま未来号外を持って街へ出た。
「号外でーーす! 号外でーーす!!」
未来号外の未来は絶対にはずさない。
だったら、俺が書き換えた未来も確実なはず。
ちょうどニュースでは隕石が地球に接近していることを報道していた。
「安心してください、あれは必ずそれますよ!」
そういって号外を配り終えたころには、日付が変わっていた。
俺は今日、世界を救った。
バイトが終わって家に帰ると、
今日2回目の未来号外が届いていた。
号外の上には1通の手紙が挟まれていた。
『大変申し訳ございません。
今日配った号外の日付が間違っていました。
正しく明日の日付に直したものをお送りします』
8/23
地球に隕石が接近して地球が壊れる