欠陥商品
ep1
父は漁師だった。
生粋の漁師で酒を飲んでるか、喧嘩してるか、漁に出てるか。
そんな二人は見合い結婚だったらしい。
母は昭和顔で着物がよく似あうすらっとした美人。
そんな母のことが大好きだった父は母以外の人間には興味を表すことはなく、ひたすら母を想い日々を過ごすも、母の男癖には手を焼き、自分に出来ることと言えば金を渡すことのみで、甲斐性のない男だったが、それでも惚れた女のために耐える健気な一面もあった。
そんな夫婦のもとに生まれた一粒種の私は母しか見ない父と誰も見ない母の間に生まれてしまった。
生まれてしまった。
生まれてきてしまった。
よく人は、親を選んで生まれてくると言うけれど、それが本当なら私はこの世に命として誕生した瞬間から大馬鹿者だったと言うことになるだろう。
親子である証である母子手帳を拝見すると、なぜか常に栄養失調の記載。
母は母乳で育てたことを自慢していたが、それはきっと嘘だと思う。
男にしか興味のない母が赤子に乳を差し出すなんてあり得ないに決まってる。
小さく生まれた私は十分な栄養を与えられることもなく、保健婦さんの目によって発見され病院に強制連行され、それを繰り返してもらったおかげでどうにか生き延びたのであろうと推測する。
今の時代ならそんなものはすぐに児童相談所だ、なんだと他人が入り込んだのだろうけど、当時はまだ甘かったのだろう。
母はほどなく私を連れ家を出て、私は小さなマンションの一角で日々糞尿を垂れ、母が買って来てくれる食事を貪り、飼っていた猫と会話しながら成長した。
母に与えられた食事は美味しかったのかまずかったのかも覚えていないが、チャーハンと唐揚げがひとつになったお弁当や、薄い肉がごはんの上に乗って少しだけ赤い紅ショウガが見えるようなお弁当ばかりだった。
飲み物は水道から出るお水。
冷蔵庫は一応あったが中身はいつも空っぽで、開けるとオレンジ色の光と涼しい風が私にまとわりついた。
米も味噌も醤油も砂糖もない家で、子どもなら誰でも大好きであろうお菓子の類もまるでなく、チョコレート一粒ない。
そんな母がたまに家にいる時に私にどうぞ、と言って出してくれるのは水菓子と言われるものだけで、私は本当に時々与えられるその水菓子の糖分をかぶと虫のように貪った。
ちなみに水菓子とは果物のことである。