飯テロリストのバッドエンド
「食事? ああ、あれね」
「栄養補給でしょ? それ以外に何があるの?」
「別に楽しみとかじゃないよ、食事だもん」
忙しすぎる現代人は食事の時間を取らなくなり、
より効率的に。
より効果的に。
行きついた先がゼリー飲料による食事が一般化していた。
「我々はそんな食事離れした連中に、
飯テロを行うテロ集団『Q-Shock』である!!」
「「「 おぉーー!! 」」」
テロ前の決起集会で俺は声を張った。
「みんないくぞ!! 飯テロを仕掛けるんだ!!」
その日、無差別飯テロは空港で行われた。
「……なにかいい香りしないか?」
「この香りなにかしら……おなかが減ってくる……!」
ウナギのかば焼きの香りに空港が包まれる。
このにおいをかいでお腹が減らない日本人はいない。
続いて、作戦2。
空港のネット回線をジャックし、
スマホの画像においしそうな肉の画像を表示させる。
「なにこれ?! おいしそう!」
「ちくしょう! お腹がへっちまう!!」
飯テロは大成功。
誰もが忘れかけていた食事の醍醐味を思い出すはずだ。
そして、作戦3は……。
「テロリストだ!! 飯テロリストだ!!」
「ちぃ! 特定栄養食品委員会か!! 引き上げるぞ!!」
飯テロは完全に遂行されることなく、空港を去った。
味トに戻ってからも、メンバーは不満げだった。
「委員会の奴らが来なければ、もっと飯テロできたのに」
「くそっ……あと少しのところで……」
食事の楽しさ、嬉しさをもっと多くの人に広めたい。
けれど、より効率的かつ迅速に食事をするべきとした
『特定栄養食品委員会』とはかねてから対立していた。
「リーダー、どうしますか?
この地域は委員会の奴らにマークされています。
新しい飯争地域を探した方が……」
「いや、まだた。テロはこの地域で行う」
「し、しかし! リーダーもご存知でしょう!?
委員会の奴らは、Q-Shock対策に本部をこの地域に移動させて……」
「その本部を狙う」
俺の一言で、メンバー全員の顔が変わった。
「みんな思い出せ、小学生の時の給食の時間を。
献立を見て一喜一憂しただろ? プリンを取り合ったじゃないか。
それがいまじゃどうだ」
「ゼリー飲料のパックひとつで、味が変わるだけ。
そんなもの、飽きないだけで楽しいものじゃない。
俺たちはそれを変えるために飯テロリストになったんだろ!!」
俺の大演説に、失いかけていた情熱の火がともる。
「そうだ! やってやろうぜ!」
「本部の連中に飯テロしかけてやるんだ!」
「見てろ! 俺たちの強さを!」
数日後、作戦は決行された。
「社長! 大変です!! 本部の窓に大きな天丼の横断幕が!!」
「なにぃ!?」
高層ビルには長い長い横断幕が広げられた。
香りすら感じそうなおいしそうな丼の絵がついている。
「じゅるっ……はっ! これは飯テロリスト!?」
社長は慌てて内線をかけようとしたが通じない。
受話器から聞こえてくるのは、油で揚げるコロッケの音。
「ぐぅ!? 飯テロか!!」
秘書はすでにお腹を減らしてその場にへたり込む。
作戦通り、Q-Shockのメンバーが社長室になだれ込んだ。
「動くな!! 少しでも妙な動きをすれば、
炊き立てごはんのにおい弾を発射する!!」
「くっ……! いったい何が目的だ!」
「この飯争地域からの退却をしてもらおうか。
お前らが統治するかぎり、この地域の人々に食事の楽しみはない!」
「食事の楽しみ……か」
社長はなにか思い出したように目を細める。
「ああ、私も久しく忘れていたよ……。
部活帰りに寄った定食屋のおいしさを」
「それじゃ……」
「料理もしなくなり、いつしか失敗が怖くなった。
できそこないのマズイ料理を作るくらいなら、
時間をかけずに、平均的な味を出せる方がいい、と」
社長はふらふらと歩き出して、社長椅子に腰かける。
「……だが、こんな世界は確かに間違っている。
私たちは食事の楽しみというものを忘れていたのかもしれないな」
「やった! この地域から出てってくれるんだな!」
下っ端の声に俺はすぐ反論した。
「……いや、その必要はない」
「リーダー!?」
「俺たちをわかってくれたんだろ?
だったら出ていくことなんてないじゃないか」
「いいのか? 私どもは君たちを目の敵にしていたんだぞ?」
「俺たちはテロリストだ。体制を変えられればそれで目的は完了する。
あんただって、食事の楽しみを思い出したんだろ?」
「ああ、もちろんだ。
今度からわが社は単に味を買えただけの食品は出さない。
ちゃんと食事できるものに切り替えるよ」
飯テロメンバーは納得したようにうなづいた。
「だったら、俺たちはこれまでだ。
俺たちに変わって、食事の楽しさをもっと広めてくれ」
「もちろんだ」
かくして、数年にわたって続いた飯テロリストと
特定栄養食品委員会との激しい鮮争は終わりを迎えた。
「きっと……いい食品を作ってくれるさ。食事が楽しくなるような……」
俺は最後にビルを見上げながらつぶやいた。
数日後、委員会は新しい食品を出した。
『食事の楽しみも味わえる、新商品!!
キャロリーメイトカレー登場!!
ご飯味のゼリーに、カレー味のゼリーを垂らすだけ!!』
「食事が楽しめるようにって……こういうことじゃねえぇええ!!」
飯テロリストは再び出動することとなった。
作品名:飯テロリストのバッドエンド 作家名:かなりえずき