私は風を抱き締める
ついうっかりの現実逃避
心はふわふわと島国を離れ大陸へ
鉄の鳥がまだ空を飛んでいない時代
人々は草原の道やオアシスの道を通り地中海へ
心を揺さぶる琴の音が砂漠を渡り
踊り手たち軽やかに笛や太鼓とともに舞う
朗々とした歌声は国境を越えて
私の心を掬い上げてくれる
嬉しくなって
私は風とともに踊る
~満天~
深い海の底から私の心が目覚めると
そこに在るのは無数の命の煌めき
美しく楽しい旋律は
森羅万象を司どる神々の歌
今ここに在れる歓びを
ここに在る大切なものを感じて
全てのものに宿る魂の輝き
私たちは地上にある満天
~宝箱~
楽しいことがいっぱい詰まった
夢の宝石箱から
私は何を取り出そうか
美しいと感じる風景を記憶から拾い出して
どこまでも深く澄みきった大きな泉
古代の香りを彷彿とさせるシダが生える森
光が零れ落ちそうな星空
海から見上げる水面の煌めき
豊穣を歌う棚田の稲穂
映像でしか見たことがなくても
大切な宝物たち
~子守唄~
眠れ眠れと風が歌う
柔らかく私を撫でる風に
安心してうとうとと
疲れて体の澱みを
風がさらりと流して消していく
気持ちよくて笑顔でうとうと
虫の音を遠くに聞きながら
私は大気に抱かれて眠る
~風とともに~
過去の
多くの風景の中で
私は
ざわめく木々や
風に踊る稲穂や
頬を撫でるベタついた潮風や
空を流れる雲や
水面を滑る風の軌跡を
いつも追っていた
感情を表に出すのは苦手で
そもそもぽっかりとした私だけれど
それがもどかしくて
何かから自由になりたいと望み
風に憧れを抱いていた
そう
私はいつも風を抱き締めていた