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生まれ変わっても この源氏とは

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7 私に出逢うことなかれ



(1)

温かみは
とうに失せても

抱きしめた
貴女が死んだ
気がしない

閉じた瞼が
二度と見開く
ことはなくても

貴女が死んだと
思いきれない

血の気の失せた
その唇から

軽妙洒脱な
相槌も
袖に隠した
忍び笑いも

もう二度と
返ってこないと
判っていながら

物言わぬ
貴女に向かって
話しかけずに
いられない

貴女を弔う
野辺送り

急かして
止まない
周りの声は
耳塞いでも
聞こえてくるのに

死ぬほど
聞きたい
貴女の声は

もう二度と
聞こえてこない


(2)

---愛した者が
満たされる---

そのことを以って
良しとするなら

私の懸想は
満願成就
大いに叶った
不足はない

さりながら

---愛された者が
満ち足りる---

そのことなくして
懸想の成就と
言わぬとあらば

私の懸想は
何ひとつ
誇れる実など
結ばなかった

紫よ

貴女を
見出だし
守り
育てた

それが私の
自負だったのに

いつの間にやら
貴女は私を
追い越して

遠くはるかに
大人におなりで

いつの間にやら
私の方が

貴女を慕い
貴女を頼り
貴女に狎れて
貴女に甘えた

それでも貴女は
倦むことを知らず
私を憐れみ
気遣い
赦し

挙げ句の果てに
精も根も
尽き果てて

あまりに不憫と
見るに見かねた
仏の御許に
召されて逝った

仏が貴女を
召されるのなら

人の私は
拒めまい

貴女を返せと
泣き叫んだとて
叶うまい

かといって
貴女を失くした
この身など
どの道長くは
持つまいから

それならむしろ

遠からず
私の命が
尽きるまで

貴女のいない
侘しいこの世に
のたうち回って
その日を待とう

貴女のいない
この寂寥の
業火に焼かれて
その日を待とう

紫よ

もし万が一
万々が一

この先互いに
同じ世界に
いつか再び
生を享けても

もしも貴女が
満ち足りた
平穏な日々を
望むなら

二度と
私に
逢うなかれ

---互いに
満たし
満たされてこそ---

そんな懸想の
イロハのイすら
わきまえぬ身で
貴女を愛した
不埒な阿呆に
逢うことなかれ

いつの世に
どう生まれたとて
逢えば再び
性懲りもなく

貴女に焦がれ
虜にならずに
いられない
この私とは

決して
出逢うことなかれ


  <完>