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生まれ変わっても この源氏とは

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4 鄙で見た夢



(1)

放縦の
科を負わんと
自ら望んだ
都落ち

期限を定めぬ
遠国蟄居

贖罪は
この身ひとつで
果たそうと

貴女を残して
独りで発った
鄙の地で

私はひとつ
罪を重ねた

明石の鄙で
ひとつ
儚い夢を見て

見たままを

とつおいつ
逡巡の果てに
貴女に宛てて
文にした

ある日突然
遠流の地から

“側室”という
摩訶不思議を
文一通で
突きつけて

いぶかる貴女に
問答無用で
“嫉妬”なる
奇怪な念まで
教授した

何から何まで
唐突で
あまりにも
得手勝手な罪

無事の帰りを
待つだけの身が
悲しいと

遠い都で
涙ながらに
案じてくれた
罪なき貴女に

終生負わせた
懊悩の
あれが始まり

今日まで重ねた
私の数多の
罪業のうち

まちがいなく
一二を争う
残酷な罪

それでも
貴女は
黙って耐えた

嫉妬なる
異な魔物さえ

貴女は
見事に
牛耳って

罵るでも
泣き叫ぶでも
生霊となって
呪うでもなく

隠しおおせぬ
恨めしさを
ごくごくたまに
やんわりと
歌の半句で
ほのめかしては

そっぽを向いて
束の間すねた

せいぜいそれが
妻として
私に見せた
貴女の焼きもち

その慎ましさが
可愛くて
その度ごとに
機嫌をとっては
なだめたけれど

「焼きもちなど
似合わないから
貴女は焼くな」と
笑う私の
理不尽や

比翼連理と
誓った愛に
信じて賭けた
虚しさに

呆れて
やがて
諦めて

誇り高く
慎み深く
他を慮る
貴女はいつしか

焼きもちを焼く
素振りすら
見せては
下さらなくなった


(2)

明石に
生まれた
姫母子が

優しい貴女の
心の鉄鎖と
ならなかった
はずがない

身ごもることの
ついぞなかった
我が身の
不運を
かこつどころか

産みの母さえ
手を合わせるほど
姫を我が子と
慈しみ

姫をして
生涯慈母と
慕わしめた
底知れぬ
貴女の献身

のみならず

件の姫の
母親を
ゆかしい女性と
褒めて微笑み

仲睦まじく
行き来を重ねた
貴女の
度量の
無限の広さ

それらすべては
健気な貴女が

自分自身の
自尊心すら
投げ打って
贖いつづけた
犠牲の賜物

女性にょしょうとして
ときに
どれほど
悔しかったか

女性にょしょうとして
ときに
どれほど
妬ましかったか

察して余る
その苦しさを
ちらとも表に
出すことなく

姫母子を
包んだ
貴女のまなざしは

私には
大きな呵責

未来永劫
消えない呵責

紫よ

貴女を
母に
してやりたかった

腹を痛めた
我が子を抱いた
貴女を
ひと目
見てみたかった

母たる貴女を
見てみたかった