精神健康診断はじまります!
とはいえ気分はまるで進まない。
普段は飲み歩いているし、お世辞にも体を気遣ったことはない。
「気が重いなぁ……」
病院につくとすぐに真っ白い部屋に通された。
周りには看護師どころか装置ひとつない。
「あの、ここは……?」
「今から精神健康診断を始めます。
あなたの精神的な健康診断です。
それと、この部屋からは出ないでくださいね」
「は、はぁ……?」
看護師は部屋を出て行ってしまった。
取り残された俺は白い部屋でひとりきり。
なんか昔映画で見たことある。
なにもない部屋に閉じ込められておかしくなる人間の話。
精神的な健康ってそれをするのだろうか。
怖くなってドアノブを引いてみる。
カチャ。
「……開じゃん」
密室終了。
ドアには鍵なんてかかっていなかった。
でも、一応しばらくは部屋で待っていることに。
すると、壁の奥から機械が作動する音が聞こえたかと思うと
部屋に広がったのは普段の俺の仕事場。
「なんだなんだ? なにが始まるんだ?」
バーチャルで投影されたとはいえ、あまりにリアル。
この臨場感は本当に職場にいるみたいだ。
奥から上司が歩いてくる。
「君ね! この書類どうなっているんだ!! 間違いだらけじゃないか!」
「あ、す、すみません!」
反射的に頭を下げてしまう。
バーチャル上司にしこたま怒られると、今度はまた別の風景が映る。
今度はどこかのデートスポットみたいだ。
誰もが幸せそうな顔でソフトクリームなんかを食べている。
本当にほほえましい光景だ。
その次は、俺の自宅が投影された。
何もないワンルームのそっけない部屋。
「ははぁ、やっとわかったぞ。
こうして俺のストレステストをしているんだな。
精神健康診断とはそういうことか、なるほど」
まだまだ仕事が残っているんだ。
ここで精神的におかしい人間と診断されたらたまらない。
ここは何としても耐えきって、正常な人間であることを証明しなくては。
投影される映像は俺の普段の生活に関わるものからだんだんと変わって、
戦争やホラーをはじめバリエーション豊かな映像に切り替わる。
でも、俺はあっさりと耐えてみせた。
なんとしても正常だと証明しなければならない。
俺には仕事が山積みなんだから。
部屋に投影がされなくなると、もとの白い部屋に戻った。
「おっ、ついに終わったみたいだ」
すると、外側からドアが開いて看護師が出てきた。
「お疲れさまでした、これで検査は終了です」
「それはよかった。それじゃ俺はこれで帰ります」
「いいえ、あなたは検査入院してもらいます」
「……え?」
看護師の言葉に思わず頭が停止した。
「待ってくれ! どうして俺は検査入院なんだ!?
俺の精神はいたって正常じゃないか!」
看護師は顔を曇らせた。
「いえ……あれだけ、あなたの嫌いなものを投影したのに
一度も部屋を出ないなんてやっぱり異常ですよ、あなた……」
作品名:精神健康診断はじまります! 作家名:かなりえずき