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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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命相続人のネクストライフ!

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「もう人生なんて最悪だよ。
 結婚してもいいことなんてなにひとつないし、
 仕事は毎日大変だし、ストレスはたまるし……」

「わかるよ。俺もかつて運命を感じた妻だったのに
 いまや、運命どころか憎たらしさしかないものな」

「……なぁ、相続人になってくれないか?」

「どうした急に」

「ボクがもし、体を壊したりして死んじゃった時に
 嫌いな人に自動的に相続されるのは嫌なんだ」

「なに? お前死ぬの?」
「そういうわけじゃないけど」

「ふぅん、ま、名前を貸すくらいならいいよ。
 それでお前の不安がなくなるんなら」

「そっか、ありがとう」

この会話が友達と話した最後の言葉だった、
その翌日に友達は死んだ。まだ若かったのに。

葬式を終えると、弁護士らしい男がやってきた。

「相続人の方ですね?」

「え、ええ。でも、まさかこんな急に……」

「あなたが"命相続人"の欄に名前が書かれていました。
 したがって、残り生きるはずだった寿命はあなたに引き継がれます」

「……は!? え!? 相続人ってお金とかじゃなくて!?」

「はい、お金ではなく引き継がれるのは命です。
 あなたには、残り100年分の命が相続されます」

「100年!?」

「ご友人は、生前ほかの人から命を相続していました。
 ご友人の残りの寿命と、もともと相続していた命を合わせて
 寿命100年分があなたに相続されたんです」

「ま、まじかよ……」

そんなこんなで、俺の寿命は100年延びてしまった。

状況が呑み込めないまま家に帰ると、
俺のゴルフバッグが家からなくなっていたことに気付く。

「なぁ、俺のゴルフバッグは?」

「あら、それなら売ったわよ」

「売った!? なんで!? 高いんだぞ!!
 お金は十分にあるじゃないか!」

「あなた、1回使ったきり使わなかったじゃない。
 それにあなたの部屋のよくわかんないカメラも売ったわ。
 もう半年以上使ってないもの」

「待て待て待て!! あれいくらしたと思ってるんだ!!」

「だったら言わせてもらうけどね!!
 誕生日プレゼントもない、結婚記念日も忘れる!
 結婚してから私になにも贈ってくれないじゃない!!!」

妻と言い合いになり、家の雰囲気は最悪になった。
ああ、もう、ホントなんでこんな女と結婚したんだ。

"君から延びる運命の糸が俺につながっていたんだ"

とかキザなセリフで告白した過去の自分をぶち殺したい。
寿命が100年増えたからといって、それは地獄の時間が増えたことで……。

「いや、待てよ?」

ふと、考えてみる。

俺がこのまま生きて、妻が死ぬころには俺はおじいちゃん。
残りの寿命は60年くらいあったとしても、おじいちゃんの体だ。
女の子をナンパすることも、どこかに出かけることもできない。

そんなんで60年を満喫できるだろうか。
いや、ムリだ。

縁側でお茶をすすりながら60年なんて長すぎる。

「それだったら、また新しい人生を始めたほうがいい……!」

俺はアイデアを試したくて、体販売所へと向かった。



「いらっしゃいませ。体販売所へようこそ」

「あの、ちょっと聞きたいんですが
 この体って意識とかはあるんですか?」

「ないですよ。新しい体になりたい人が、
 予備の体として購入されることが多いです。
 あなたの前に来店した女性も、その理由でご購入されました」

「1つください」

「1000万円です」

「高っ!!!」

「当たり前じゃないですか。人間の体を売ってるんです。
 ともすれば、内臓とかをばら売りされる可能性もあります。
 ちゃんと元を取れる値段にしなきゃです」

「じゃ、1体予約します」

体を1つ予約しておいた。

俺を取り巻くこの人生はもうすでに絶望の底。
だったら、俺の大量の寿命を新しい体に引き継がせて
また新しい人生をスタートさせるんだ。

その日を境に、俺は狂ったように仕事をしまくった。

家に帰るころにはいつも深夜になっていた。

「あれ、俺のコンポ……それに車もない……」

どんどん俺のものがなくなっている。
妻のしわざだろう。好きにすればいい。

どうせ俺にはもう1つの新しい人生が待っているんだから。

残業に残業を重ねまくった結果、俺は自分の体を購入できた。
そのころには長時間労働がたたって体を壊した。

なんて最高なタイミング。

「よし……これで……死ねるぞ……」

病院のベッドで機械につながれている。
命相続人を自分の新しい体に登録した後で、
自分の人口延命装置のチューブを引き抜いた。


ピーーーー……。


 ・
 ・
 ・

目を覚ますと、新しい体になっていた。

「おおおお! やった! 大成功だ!!」

この体になったことを誰も知らない。
完全に新しい人生の始まりだ。

記憶もちゃんと引き継がれている。
前の人生のような失敗はするものか。

前回の失敗を活かして、仕事選びも慎重に行った。
そして、それ以上に妻を選ぶときはもっと慎重に行った。

前世の妻とは似ても似つかない美人で、気立てのいい女性にこう言った。

「君から延びる運命の糸が俺につながっていたんだ」

「わぁ、嬉しい!!」

彼女は俺の出した婚約指輪を受け取った。
なんて順風満帆な人生。最高だ。

「こんなこと急に話しても信じてもらえないだろうけどね。
 俺は前の人生で、山田太郎という人だったんだ」

「え! そうなの!?」

「妻が本当にひどいやつでね……。
 君とは似つかないほど、料理もしないし、人のものは勝手に捨てるし……。
 ホント最悪だったんだ」

「へえ」

「で、新しい人生をはじめようとお金を稼いで
 体を買って第二の人生をはじめたんだ」

「そうだったの」

「こうして、君という素晴らしい女性に出会えてよかったよ。
 そういった意味では、前の人生は失敗例として活用できてよかったのかもね」

「ふふ、そうかもね」

美しい妻は小さく微笑んだ。



「悪かったわね、失敗で」


がらりと変わったその表情には、
異なる体ではあれど見覚えのある般若のような顔をしていた。

「え゛……」

前の人生で妻が俺の物を処分しまくっていた理由がわかった。


運命の糸からは逃れられないのか……。