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同調率99%の少女(9) - 鎮守府Aの物語

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--- 4 相談



 翌日昼休み、生徒会室には那美恵たち4人が揃って昼食を取っていた。件の話は三戸達を通じて那美恵たちの知るところとなった。写真付き・ひどい共有文章とともに広まりすぎた状況に、さすがに那美恵も頭を抱えて、一つの判断をせざるを得なかった。

「これは、思った以上にまずいね。」
「ひどすぎる。いくらなんでもここまで書かれたら内田さんが可哀想すぎるわ!あからさまに適当な写真と適当な文章だし。」
 SNS内で流された数々共有文章と数カットの写真付きの投稿を見る4人。那美恵は戸惑いの表情を見せ、普段冷静な三千花も怒りを露わにしている。
「もちろんこんな文章全部ウソに決まってるっすよ。」
 と三戸も険しい表情をして強くまくし立てる。
「私達女子の間でも、これらの文章での共有に関しては同情派が増えてます。いくらなんでもやりすぎだと。明確ないじめとなれば先生たちや私達生徒会が黙ってないって言われ始めてます。」
 和子は女子界隈の話をする。

「先生たちや3年の先輩たちの耳に変な形で入ると何かとまずいから、もうあたしたちは暗躍して探ってる場合じゃないね。これは明らかな集団いじめだよ。それが分かった以上、生徒会として動いてきちんと対処しよう!」
 那美恵のその一言に、その場にいた全員が頷いた。
 そうして那美恵が3人にまず指示したのは、次の内容だった。
 三千花には○○高校生徒会代表として、そのSNSの運営会社に例の写真付きの投稿すべての削除を願い出ること。権威が足りないのであれば、生徒会顧問に事情を話すのも仕方なしと。
 三戸と和子には書面にて、ここ最近個人を根も葉もない噂で集団で陥れる行為が横行している、各自冷静な判断で対応すること、と表向きは穏やかな文面で注意を促す。
 そして裏の根回しでは風紀委員会および放送部を通じて、当事者たちと第一次の影響範囲と思われる生徒たちに直接アプローチし、しっかり耳を傾けて勝手な判断で個人を攻撃しないことを注意して回る。今度は生徒会としての正式な行為なので、那美恵は二人に堂々と立ち振る舞ってもよいと指示を出した。
 噂の出処がわからない以上は明確な犯人を探しだすことはできないため、生徒会としてはそれが限界だ。

 昼食を早々に食べ終わり、それらのことを話して決めていると、三戸の携帯電話からアラームが鳴った。彼は気づいてチェックをすると、すぐに顔を見上げ那美恵たちに視線を配って口を開いた。
「会長、みんな。なんと、内田さんからのメールっす。」
「え!?なんて?」

 彼女の方からコンタクトがあるのは意外だと、那美恵も三千花も和子も驚きの表情をして三戸に聞き返した。三戸は失礼かもと考える間もなく一言一句そのままメールの内容を読み上げた。
「三戸くん。突然メールゴメンなさい。個人的なことで悪いんだけど、相談したいことがあります。できれば、三戸くんだけで。放課後生徒会室に行きます。」

「三戸くんだけ、ね。同性の私達は信頼されてないということなのかな?」
 三千花がやや寂しげな声で言った。
「無理ないと思います。」
 気持ちを察し一言で済ます和子。
「相手から来たならチャンスだね。放課後はあたしとみっちゃん、わこちゃんはいつもどおり艦娘の展示をしよ。三戸くんはここに残って、彼女の望み通りのシチュにして話を聞いてあげて? 三戸くんは今日は内田さんの対応に専念すること。おっけぃ?」
「はい。了解っす!!」

 生徒会としての対応は各自する。まずは自ら飛び込んできた当事者たる内田流留への直接のフォローをするため、那美恵は三戸に指示を出した。


--

 ここ数日の校内の空気はある一点を除いて普段の空気を取り戻し始めていた。その違う一点とは、誰も流留を気に留めようともせず、いない者として扱うようにしている点。つまり無視という集団イジメの一定段階に入った形になる。
 校内の空気感は流留にとって苦痛以外の何物でもなかった。当事者としては嘘っぱちでも、どうとでも捉えられる確固たる証拠の写真が出回ったことで女子たちの態度は無視という基本姿勢にプラス、絶対的な嫌悪が出始めた。彼女らは、SNSで出回った文章をそっくりそのまま受け取って、それが現実のものだと信じて疑わない。

 男子は、あまりにもかわいそうな流留に味方するために態度を改める者もいたが、女子に準ずる態度が大半であった。中には流留に好意を寄せていた者達もいた。彼らは普通の女子とは違う立ち居振る舞いをし、自分たちに話をしっかり合わせてくれ、きさくで飾らない可愛さ、恋愛沙汰の噂がなかった彼女を信じていた。そんな彼女が吉崎敬大と(振られたという噂とはいえ)良い仲であった・普通の女子と同じだったという信じていた理想を裏切られたショックの反動で、女子からの注意を受ける前から流留と距離を置く者もいた。
 もはや誰が一番の原因と確たる存在かを突き止めることのできない、集団イジメそのものの構図が完全にできあがっていた。内田流留に興味が無い生徒や最初に噂を流したと思われる生徒たちとは関係ない生徒たちは、このことをいじめとしてすら認識しておらずサラリと流して普段通りの生活をする生徒もいる。変に関わったり、噂を伝える立場になったりと傍観者にすらなりたくない考えだ。

 先日以来流留と吉崎敬大は一切接触しなくなった。というよりもできなくなっていた。もはや二人が弁解して回ったところで収まる状況ではなく、いかようにでも誤解できる状況証拠の写真が出回っては、お互いがお互いの首を絞める形になることを恐れたために、二人ともあえてお互いを無視・無関係として思い込むことにしたのだ。ただ流留が知らないところでは、敬大は密やかに弁解を続けて誤解を解こうと努力をしていたが、実を結ばずにいた。
 人気のある吉崎敬大は、自身の弁解というよりも女子達の都合の良い解釈によって誤解は早々に解け、むしろ内田流留の色仕掛けの主たる被害者として同情を集めさらに人気を集めていた。結果的に誤解は(彼一人としては)解けたとはいえ本人が望んだ結果ではなく、さらに女子から言い寄られる慌ただしい状況に辟易する。元来他人が思うほど気が強くなく流されやすい敬大は、流留のことは思い続けるも周りの空気に流され影響され、本当のことを信じてもらえない交友関係・女子たちに嫌気が指していた。
 一方で一度は強く想った相手のこと、どうにかして解決の手をと思う辛抱強さだけは忘れずに過ごしていた。

 流留は、明確な味方がいなくなり孤立していた。
 写真と投稿を目の当たりにした日はあまりのショックで帰路を歩く足が異常に重く感じた。次の日の今日は気持ちが落ち着いたのかまだましだが、それでも気が重く、今までの日常で振舞っていた溌剌さがとてもではないが出せない。
 お昼休みに流留は生徒会書記の三戸にメールを出した。味方がいない今、もはや頼れるべきところにおとなしく頼るしか無いと思った。あるいは、こんな日常などもういらないという決意を固めるに十分な状態になっていた。