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同調率99%の少女(9) - 鎮守府Aの物語

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--- 5 幕間:謎の見学者




 一方視聴覚室での艦娘の展示をする那美恵たち。一人足りないということで、艦娘部顧問の阿賀奈に手伝ってもらっていた。
 見学者は全員帰り、落ち着いた頃の会話である。

「三戸くん、大丈夫かなぁ〜」
 那美恵が一言で心配する。そばに居た三千花がチラリと那美恵を見て言った。
「なんだかんだで三戸君のことは大丈夫だって信頼してるんでしょ?」
「えへへ。まぁね。」
 そこに阿賀奈が入り込んでくる。
「なになに?三戸君がどうかしたの!?」
 さすがに先生相手では内田流留周りのことを言うのはまずいと思い、那美恵は適当な事を言ってごまかした。
「いえ。ちょっと別用で生徒会室にこもって仕事してもらってるので。ヘマやらかさないかちょっと心配になったもので〜」

 阿賀奈は特に興味無いのか、ふぅんと言うだけでそれ以上那美恵たちに絡もうとはしなかった。代わりに、今日の展示の状況の感想を口にした。
「そろそろ1週間経つけど、意外とまだ人来るわね〜。先生驚いちゃった。」
「やはり土曜日のデモが効果あったんだと思いますよ。月曜からこんな感じでしたから。」
 三千花が阿賀奈に同意した。

 この日は5〜6人見学者が来て、そのうち2人が同調を試した。そんな見学者の話題。
「ところで、あの子また試しにきたわね。なんなのかしら?」
 三千花がそう言及した子、それは先日から立て続けに来ている女子生徒だった。

「うんうん。今日もチェックして33%で不合格だったし。」
「ねぇなみえ。艦娘の艤装って、何度やっても同じ結果なのかな?」
 多少の誤差はあれど、その生徒の毎回の結果が気になった三千花は那美恵に尋ねてみた。
「あたしもそんな詳しいわけじゃないからなぁ〜明石さんならわかるかも。」
「西脇提督じゃなくて?」
「うん。艤装のことだったら提督なんかより間違いなく明石さんでしょ〜。」

「それはなみえから聞いてもらうとして、もし同調率が劇的に変わることがないなら、毎回試しに来ても無駄だから早々に諦めさせたほうが彼女のためじゃないの?」
 三千花はそう提案すると那美恵は頷いてそれに賛同した。そしてその女子生徒の気になった動きを挙げてクスクスと笑い合う。
「うん、そうだねぇ。あの子、他の生徒がいるときにこそっと入ってきて一人になった後に同調試すの申し出てくるのが面白くってあたし笑いそうになっちゃったもん。」
「あ〜確かに前も昨日もほとんどまったく同じパターンだったよね。本人あれで目立ってないつもりなのかしら?」
「逆に印象強く残るよね〜」
「えぇ。」

 そして那美恵が時計を見ると展示の限界時間に達していた。廊下から和子が戻ってくる。
「どうかなさったんですか?」
「え? うん。今日も来たあの子、一体なんなんだろ〜な〜ッて話してたの。」
「さっちゃんのことですか?」
「「「さっちゃん?」」」

 和子が何気なく発した名前のような言葉に、和子以外の三人は声をハモらせて聞き返した。その反応を意に介さず和子はサラリと答える。
「はい。[[rb:神先幸 > かんざきさち]]、私はさっちゃんって呼んでます。」
「友達?」
「はい。同じクラスで、周りからは地味子って呼ばれてますけど。」
「また絶妙に特徴を突くようなひどいあだ名だなぁ〜」
 那美恵が神先幸の呼ばれ方を少し気にすると、それに対して和子が言った。

「本人もわかってるらしいんですけど、気にしてない様子です。」
「アハハ。んで、その神先さんってどういう子なの?わこちゃんは前から友達だったの?」
「高校入って隣の席同士だったので話すうちに仲良くなりました。さっちゃん地味で目立たないけど良い娘ですよ。この前の中間テストでも1年生で10位以内で頭けっこういいんです。恥ずかしがり屋で目立つの嫌いらしくていつも俯いてますけど、人の細かいところに気がついてさり気なく指摘してくれるし、まめな性格で優しい娘です。」

「へぇ〜。もう3〜4回は艦娘の展示見に来てるけど、艦娘に興味あるのかな? 同調も3回ほど試しているし、艦娘になりたいのかも。」
 那美恵はなんとなくその神先幸が気になってきた。地味で目立たないとはいえ、さすがに何度もくれば否応なく目立つ。本人がそのことをわかっているかどうかまではわからないため特に考慮に入れない。那美恵の質問に和子は一応答えるがあまり適切な返事にはならなかった。
「さぁ……私が艦娘の展示を手伝ってるって話した時は特に反応してくれませんでしたし、てっきり興味ないものかと思ってました。さっちゃんの趣味って読書や散歩が好きとかそのくらいしか話してくれないので。」

「散歩が趣味な女子高生って……。なかなか渋そうな子ね。」
 三千花は途中でクスリと微笑し興味ありげな反応を示す。
「ま、あそこまで艦娘に興味示してくれるのはあたしにとっては嬉しいことだよ。川内の艤装とは相性悪いのは残念だけど、いつかフィーリングの合う艤装に巡りあわせてあげたいなぁ。」


 那美恵がそう言うと、三千花はあることを思い出したのでそれを口にしてみた。
「そういえば、軽巡洋艦神通とかいう艤装ってどうなったの?あれから1週間以上は経ってるし、もう鎮守府に配備されてるんじゃないの?」
 那美恵はそのセリフを聞いてハッとした表情をした。
「あたしとしたことが、すっかり忘れたよ……。」
「まぁこのところ色々あったからねぇ。」
 親友の気持ちを察して声をかけてあげる三千花。二人の掛け合いを見た阿賀奈が質問してきた。

「ねぇねぇ。じんつうのぎそうってなんなの?先生にもわかるように教えてよ〜」
 阿賀奈の質問には三千花が答えた。
「はい。なみえが西脇提督と約束してたんです。新しい艦娘の艤装が配備されたらもらうって。」

 さすがに三千花の説明だけではわからないと思い、那美恵が事の顛末を交えて説明しなおした。
「……というわけで、直近で配備される艤装を予約してたってことなんです。うちの高校の艦娘部のために無理やり約束して優先させちゃました。てへ!」
「あ〜。光主さんずる賢いんだ〜。」

 阿賀奈から冗談めかして突っつかれ、那美恵はエヘヘと笑って済ませた。そのとき三千花もその場にいてわかっていたので、阿賀奈に冗談交じりに那美恵の様子を教えた。
「そうなんですよ先生。なみえってば、西脇提督を脅してまで艤装ガメようとしたんですよ。叱ってあげてくださいよー。」
 それを聞いた阿賀奈は那美恵に向かってわざとらしく怒った。
「光主さん、めっ!大人を脅したらいけないんだよぉ〜!」
「んもぅ!みっちゃんも先生もやめてよ〜〜」


 すぐにふざけあう那美恵と三千花(主に那美恵からだが)に、はぁ…と溜息を付いて冷静に眺める和子。彼女は、友達の神先幸が本当に艦娘に興味があるなら、どうにかして力になってあげたいと頭の片隅で考えていた。