週刊自分を読んで自分を磨け!
ふらと暇つぶしに立ち寄ったコンビニ。
壁に沿って積まれた雑誌で目が留まった。
『週刊 自分』
表紙には俺が映っていた。
「な、なんだこれ!? こんなのいつ撮ったんだ!?」
雑誌には俺の今週中の出来事がこと細かく書かれていた。
最初は批判的に見ていた俺だったが、
内容は俺の活動をポジティブに書いていたので悪い気はしなかった。
「すみません、これください」
「ありがとうございましたーー」
その日を境に、俺は『週刊自分』のとりこになった。
・コラム:今週のゲーム三昧!
・コンビニで食した新作カップ麺!
・最近笑ったテレビ番組特集!!
雑誌では俺の1週間の活動を細かく書いてくれている。
誰かに見られる恐怖よりも、記事にしてくれる嬉しさが勝った。
だって、ちょっと買った缶ジュースすら記事にしてくれる。
まるで一流セレブにでもなった気分じゃないか。
「俺はやっぱり記事にするだけの人間なんだな!」
ある日、いつものようにコンビニに雑誌を買いに行った。
「あれ? すみません、ここにあった『週刊自分』は?」
「ああ、あの雑誌ですか。仕入れ止めたんです、売れないし」
「はああ!?」
しょうがないので家に帰ってネットで注文することに。
ネットの買い物画面を開いた瞬間、手が止まった。
『週刊自分 8月号』 ★☆☆☆☆
「星が……1つ!?」
レビューを読み進めていくと辛口な批判が続く。
"毎週同じことしかしていない"
"読んでいてためにならない"
"退屈な雑誌。ゴミ"
「な、なんだとぉ……!?」
自分の日常が細かく書かれているからこそ、
批判されると自分の日常そのものが批判されているようで我慢ならない。
「だったら見せてやるよ! 退屈じゃない日常を!!」
9月号からは一気に内容が変化した。
インドア一択だった雑誌の内容が、アクティブになる。
サーフィンに合コン、美術館にゲームショウ。
あまりにボリュームたっぷりな内容だったので、
9月号はこれまでの中で最もページ数が多くなった。
「さあ、どうだ!! 読み応えばっちりだぜ!!」
金と労力と体力を削りに削って作った記事。
ネットの評価は、期待以上に良かった。
"自分の知らないことが知れて楽しかった!"
"読んでいてすごくためになりました!"
"10月号も楽しみ!"
「うんうん、そうだろうそうだろう」
批判されたときは腹の底からムカついたが、
褒められるときは心の底から嬉しくなる。
「ようし!! この調子でバンバン人気をあげてやる!!」
俺の決意表明は現実へとなった。
アクティブになった俺の"日常のチャレンジ"は、
『週刊自分』の売り上げを劇的にアップさせていった。
コンビニでの店頭販売も復活するどころか、
取り合いになるほどの大人気に雑誌にまで上り詰める。
ファンクラブも作られ、Wikipediaにもページが作られる。
けれど、俺の頭は悩みの雲で覆われていた。
「やばい……次はどうするか……」
1月号に掲載するネタがもうない。
絵画教室にも行った、危険なスタント遊びも行った
心霊スポットにも行った、無人島にも行った……。
読者を楽しませる"新鮮なネタ"はとっくに底をついていた。
「どうすればいい……12月号みたいにインドア方針に戻すか……。
いや、でも12月号はそれで批判されていたし……」
いくら頭を悩ませてもアイデアは出ないまま時間が過ぎる。
「あああ!!! ダメだダメだ!! もう無理だ!!
毎日変化が起きて、いつも新しい日々なんて送れるわけないだろ!!
そんなこと……絶対ムリだぁ!!」
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『週刊自分 4月号』
4月号の特集は入学式や新生活が記事になっている。
「あなた、子供の成長って早いものね」
「そうだな……本当に早くて、話題に尽きないよ」
ネタが尽きるのは、俺が1人だからだ。
結婚して家族が増えて、子供ができると同じ1日のほうが珍しくなった。
前のようにわざわざ記事のネタを作らなくても、
子供が、両親が、妻がイベントを作ってくれる。
「あれから、もうネタが尽きたことを気にしなくなったなぁ」
俺は元気に入学式の門をくぐる娘を見送った。
これもきっと記事になるんだろう。
いつしか『週刊自分』の主役は俺ではなく、娘になっていた。
「ふふ、そういえば最近は全然買ってなかったな。
入学記念に久しぶりに雑誌を買おうかな」
最新号の『週刊自分』を購入して、中身を読んだ。
そこには娘のほほえましい姿が……
スクープ! 親にはヒミツ♥のオマセな関係♪
~ 袋とじ:秘蔵写真集 ~
自分の顔から表情が抜け落ちたのがわかった。
娘の入学式に電撃乱入するまであと3秒。
作品名:週刊自分を読んで自分を磨け! 作家名:かなりえずき