多数派の神はただ1人
現在、42歳。
今日の合コンも手ごたえなく終わった。
年収も普通、顔も普通、身長も普通、
頭も普通、仕事も普通……の面白みがないからモテない。
家につくと、ポストに紙が届いていた。
『多数決の神 決定戦のお知らせ』
※ ※ ※
多数決の神決定戦会場は、どこかのクイズ番組のように
○×が書かれたが床にある。
「国民のみなさんようこそお集まりいただきました!
これから出すクイズを見事突破して、多数決の神を1人決めましょう!」
多数決の神ってなんだ。
「政治家は一般的な常識から離れたことばかりします!
だったら、ごく一般的な常識に一番近い人を世界のトップにして
その意見に従うのが一番ということです!」
○×クイズでもっとも一般的……つまり、誰もが選ぶ答えを
一番選び続けた"一般的な人"が一番正しいわけか。
「では第1問!!
あなたは犬派ですか? 猫派ですか?」
俺は手元のスイッチを押す。
答えはすぐに○×のパネルに表示される。
「どるるるる……じゃん!!
多数決の結果、犬派に決まりました!!
猫(バツ)を選んだ人は帰ってください。では第二問!!」
猫を選んだ半分近くが一気に立ち去った。
「第二問! タイムマシンができました、行くとしたら
未来ですか? 過去ですか?」
俺はスイッチを押す。
「多数決の結果……未来派が多数!!
過去を選んだ少数派のみなさんはお帰りください!」
多数決はこの会場だけでなく、
すべての世界の人で統計が取られている。
過去を選んだ人が帰って、この場に人がいなくても
多数決の総評数はなんらかわらなかった。
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「第1001問!! 体を洗う時は右腕から? 左腕から?」
ついに人数は俺ともう1人まで減っていた。
「多数派は……左腕!!
この瞬間! ついにもっとも多数派の神が選ばれました!!」
俺がもっとも多数派の答えを選び続けたことで
多数派の神となることができた。
「おめでとうございます!
これからこの世界は、一番多数派の目を持っているあなたに従います!」
「本当ですか! ありがとうございます!」
晴れて、多数派の神となることができた。
実感はわかなかったが、さまざまな確認事項が舞い込んでくるようになると
嫌でも多数派の神であることを実感するようになった。
「ああ、それはやらない方がいいと思う」
「俺はこっちの方が好きかな」
「たぶん、そっちじゃないかな」
「わかりました!!」
俺が多数派の神である以上、誰も反論しない。
それがこの世界の多数派の代弁だから。
「あーーあ、ちょっとお腹空いたなぁ。おにぎり食べたいな」
ふとこぼすと、あっという間におにぎりが用意された。
「はい、おにぎりでございます。
この時間にお腹が減るのは多数派ですよね。
気付けなくて申し訳ありません」
「え? あ、うん。あはは」
これは使えるかもしれない。
多数派の神である以上、誰も指示の正しさは疑わない。
「ベッドが欲しいかなーー」
前のベッドが古かったので、ここは買ってもらおう。
多数派の神なんだからすぐに用意してくれるだろう。
世界の人たちは、この言葉を聞いてすぐに動き出した。
「よし! ベッドを用意しよう!」
と、素直にベッドを用意する派。
「ベッド……つまり、布団がいるのだな!」
と、布団を用意する派。
「ペットを用意しろ! それ以外は処刑だ!」
と、聴き間違いをしている過激派。
指示ひとつの解釈で、いくらでも派閥が生まれてしまった。
しかもお互いの解釈の正しさを巡って戦争すら起きる始末。
「ごく普通の!! ごく普通のベッドを用意してください!
布団じゃなくて、ベッド! マットレスを敷いたベッドで!」
必死に細かく指示を出すと、
さすがに少数派も過激派も多数派も納得したようで
ちゃんと求めていたベッドが用意された。
高級なものではなく
この世界で一番一般的な、もっとも普通な、多数派ベッド。
「うんうん。ちゃんと指示出せば大丈夫なんだな。
ようし! これでついに嫁さんゲットだ!」
俺は多数派の神となって命じた。
「ごく普通の嫁を用意しろ! 女性の嫁だ!
年齢は同い歳! ごく普通の嫁を!」
すると、世界はふたたび戦争が起きた。
「多数派の神が求めている普通の嫁とは白人だろ!」
「バカいえ! 黒髪に決まってる!!」
「いやいや、ニューハーフだ!!」
お互いの主張や解釈をめぐって争いが始まる。
ああ、もうどうしてこうなる!
「黒髪で、日本人で、日本生まれで、学力は俺と同じくらいで
年齢は同じで、年収が同じくらいで、両親が健在で、髪が長くて……」
細かい指定をいくつもいくつも重ねた。
これなら、もう解釈を巡って争うこともない。
まもなく、俺の下に女性が送られた。
「おお! 来たか!!」
顔を見て凍り付いた。
だってこれはどう見ても……。
「多数派の神様、指定通りの女性を探したところ
条件すべてを満たした多数派の女性はいませんでした。
多数決をしても、好みがばらばらなんです」
「だ、だからってこれは……」
「はい、ですから、最も多数派になる女性をイチから作りました」
俺の目の前に立つ嫁は、俺とまったく同じ顔をしていた。
多数派の反対を無視して、すぐに神を辞めた。
作品名:多数派の神はただ1人 作家名:かなりえずき