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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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プレゼンしなきゃ本なんて売れねぇよ!!

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「できた! これで完璧だ!」

構想10年にして、製作期間20年。
まごうことなき最高傑作の小説が完成した。

さっそく、新人賞に応募すると電話が入って来た。

『作品の応募ありがとうございます。
 では、あなたの作品をプレゼンしてください』

「……は? え? いや、読めばいいじゃないですか?」

『現代人は忙しいんです。
 まして、私のような編集者も忙しいんです。
 ということで、作品の面白さを教えて下さい』

「そ、そうですね。
 この作品のテーマはすなわち"命"で
 人と動物との絆を描きながら、人間本来の命への回帰を――」

『ああ、つまんなそうですね。
 はい、落選です。お疲れさまでした』

「えええええええええ!?」

俺の30年かけた名作は数十秒で落選した。
こんなことが許されるのか。

「くそ! もういい! 自分で出版してやる!」

しょうがないので自分で店頭に持って行って、本を売ることに。
客に直接読んでよさに気付いてもらえれば文句は言われまい。

そのうち客が1人やって、俺の本を取った。

「この本の内容を教えてください」

「え? それでしたら、ほら。本の裏にあらすじがありますよ。
 それに知らない方が楽しめますよ」

「私は忙しいんです。毎日時間に追われています。
 無駄な時間を過ごしたくないんです。
 この本の内容をすべて教えてください、楽しそうだったら買います」

「わかりました。
 この本は、原始時代の人間と動物との絆を
 現代社会の希薄な人間関係におきかえて追ったドキュメンタ――」

「あ、つまんなそうですね。いりません」

「まだ途中ですよ!?」

「だって、よくある重苦しい内容なんですもん。
 いまどき、プレゼンで面白くない本が読んで面白いわけないじゃないですか」

客は去っていった。
この後も同様で、誰もが本を読む前にプレゼンを求める。

そして、俺のプレゼンを聴くなりげんなりした顔で去っていく。

「ち、ちくしょう! 本は名作なのに!!
 プレゼンがうまくなきゃ読んですらもらえないのか!」

このままでは悔しいのでプレゼンの勉強をすることに。
海外の有名なプレゼンターの動画を観たり、
セミナーに参加したり、本を読んだりしながら知識を貯めた。

気が付けば、優れたプレゼンターへと変わっていた。


「ところで、動物を飼っていますか?」

「ええ、家に犬が1匹」

「言葉が通じなくても意思が通じてると思うことありますよね?」

「ありますあります」

「そう! まさにそれなんです!
 そういった人との絆を描いた作品なんです!
 これを読めば、まさに人間の命の価値を再認識できるんですよ!!」

「わぁ! なんて楽しそうな本!! 10冊ください!!」

効果てきめん。
それまでろくに売れなかった本は、驚くほど売れた。
それにより本そのものの完成度も評価されて、一躍有名作家の仲間入り。

「先生! 次回作はいつですか!?」

「そ、そうだねぇ……あはは」

「来年ですか!? 来月ですか!? 来週ですか!? 明日ですか!?」

「わかった! わかったから! 書くよぉ!」

人気作家になってからはさらに大変だ。
追われるようにして作品を描かされるハメに。

「これは……面白くないなぁ」

自己評価が低い作品ができた。
"とりあえず書きました"といった作品。

店頭に並べると、ふたたび客がやってきた。

「この本、プレゼンしてくれるかしら?」

「はい。この本はいまだかつてない挑戦がされた作品です」

「挑戦?」

「本の中でトランプで対戦しているんですが、
 なんと! 読んでいる読者と対戦しながら進めるんです!
 こんなにスリリングで楽しい作品はありませんよ!!」

「100冊ください!!」

皮肉なもので俺がどんなクソ作品を描いたところで、
なまじっかプレゼン能力が高いので本は売れる。

しかも、プレゼンで楽しそうという先入観ができあがる以上
本がつまらなくても先入観の補正で楽しく読める。


以来、俺はどんなゴミ作品を書いても人気作家として評価された。

『あの有名作家の最新作!!』
『伝説の人気作家の新作!!』
『名作クリエイターの超大作!』

2ページしかない本でも評価はバカ高い。
けれど、そううまくはいかなかった。

「だ、だめだ……! なんも思いつかない!」

駄作ですら思いつかなくなってしまった。
一度ネタギレしてしまえば、もう俺のメッキははがれる。

"名作作家の最新作"とプレゼンされても、ぴんと来なくなる
誰それ?となってしまう。

「この作家、落ち着いてみてみると面白くないよね」
「どこにでもある内容じゃん」
「ありきたりだよね。褒めちぎるほどじゃない」

俺の評価は、冷静に戻った読者によってガタ落ち。
本はまるで売れなくなってしまった。

「くそ……最新作を書かなきゃ……はやく書かなきゃ……」

わかっていても手は動かない。
今まで、息をするように駄作を量産してきた俺に
今さら本気の良作を作れる体質はできていない。

時間がすぎれば過ぎるほど、俺の評価は風化する。
なのに手は一向に進まない。

「も、もうだめだ!! 俺の作家人生はおしまいだぁ!」

絶望のふちに立たされたとき、スーツの男がやってきた。

「お悩みですか?」

「あなたは?」

「プレゼン請負人です。
 聞けば、あなたは作品が売れなくて困っているとか」

「そうなんです! そうなんです!
 新作が書けないでモタモタしていると、
 どんどん作家の評価が下がってしまって……」

「そうですか。おまかせください。
 私がかならず作品を売ってみせますよ」

「そんなのムリに決まってます!
 新作もない! 俺の作家評価も最悪!
 それなのに、どうやってプレゼンするんですか?!」

「それをなんとかするのが私です」

半信半疑でプレゼンターと一緒に本を売りに行くことに。
もちろん新作なんてない。

プレゼンターは何もない場所にポップを立てる。


『あの名作作家の新作登場!!』


すると、客がその文句を読んでやってきた。

「名作作家の新作?」

「はい、でもすみません。
 あまりの人気のために売れてしまいました」

「そんなに面白い本なの?」

「それはもう折り紙付きです。
 ネットでも入手困難で、オークションにもありません。
 一度読んだが最後、誰も手放さないんですよ」

「なんて名作なのかしら!! すごいわ!!」

「ええ、ええ、そうでしょう?
 あまりの人気で、生産も追いついてないんです」

「ますますすごいじゃない! すさまじい名作ね!
 ああ! 読みたい! 読みたいわ!!」

「最新作はあまりの人気で売れないんですが、
 こちらの過去作でしたら、まだ残っていますよ? 買いますか?」

「買います!! もちろん!!!」


架空の最新作をチラつかせるプレゼンで、俺の作品は飛ぶように売れた。

「お前天才か!!」

「プレゼンは期待させることが大事ですから」

プレゼンターは笑って去っていった。