未来新聞が届いたら?
家のトイレで新聞を広げるのが日課だ。
「よっこいしょっと」
あ、今日は何曜日だったろう。
毎日働いていると曜日感覚がわからなくなる。
8月13日(土)
「……え!?」
いや、さすがに今日は休みじゃないだろ。
新聞の日付欄はどのページも同じ日付になっている。
「印刷ミスか、まあいい」
一面になっている金メダルの記事を斜め読みしてトイレを出た。
その日、会社に行くとやっぱり金曜日だった。
「はーーあ、今日が休日だったらなぁ」
「先輩、何言ってるんですか。
それより、昨日のオリンピック見ました?」
「ああ、金メダル取ったって話だろ。
今朝の新聞で読んだよ」
「……え? いや、銅メダルじゃないですか」
「銅? カバディーで金メダルだったって話だろ?」
「それ明日の競技ですよ。先輩、夢でも見たんですか?」
ネットでいくら検索してもその話題は出てこない。
印刷ミスどころか、朝刊は内容のミスもしていたのか。
その翌日。
「先輩! 先輩!! 日本がカバディーで金メダル取りました!
先輩の言ったとおりです! すごいです!!」
「え、ええええ!?」
「先輩、なに驚いてるんです? 先輩が言ったことじゃないですか」
「印刷ミスじゃなかったんだ……」
昨日読んだ新聞通りになっていた。
新聞は間違ってなんかいない。あれは未来の新聞だったんだ。
こうしちゃいられない。
「……俺、決めた」
「先輩、なにを決めたんですか?」
「仕事、やめる」
「はああああ!?」
俺は未来新聞を気付いたその日に仕事を辞めた。
転職先の誘いすべてを断って、まさかまさかの占い師へ電撃移籍。
「そんなの失敗するに決まってる」
「なんでわざわざ占い師に……」
「定職に就いた方がいいよ?」
周囲の人たちは苦い顔をしながら止めた。
でも、俺はきかなかった。
・
・
・
「ああ……明日の未来が見えます。
アメリカ大統領はマッスル氏が当選するでしょう。
俺の占いは100%あたります」
テレビでの生放送が終わり、翌日に俺の予言が的中する。
話した内容はすべて朝刊の記事をそのまま吐き出しただけだが。
「「「 すばらしい! まさに預言者だ!! 」」」」
的中率100%の占い師ということで話題になり、
毎日テレビに引っ張りだこで、給料も前職の10倍。
お悔やみ欄を読めば、人の生死がわかる。
一面記事を読めば、未来の出来事がわかる。
「仕事を辞めて正解だったぜ!!」
高級外車で家に帰ると、心から幸せを感じた。
翌日、朝刊を取って家の中に入る。
家のトイレに腰かけながら朝刊を開く。
いつもの光景だ。
「んと、一面の記事は……1日が10年に増える? へぇ。
芸能はっと……うげっ!!」
地球の一部で時間の流れがおかしいことを発見し、
それを応用することで明日から世界は1日24時間ではなく
1日8万7600時間(10年)に延長することになる。
って、そんな記事はどうでもいい!!
【衝撃!! 伝説の占い師の自宅大公開!!】
芸能欄で俺の記事が出ていると思ったら、
自宅がしょぼくてダサいなどと悪意のある記事。
高級外車を乗りつける癖に家は貧相。
ちっちゃな家に住む、ちっちゃな占い師。
「なんだと~~!! どうして家ひとつでここまで言われなくちゃいけない!!」
あくまで明日の記事なので、記者を近づけないようにすることもできる。
そうなれば俺の家が批判されることもないだろう。
でも、そうしない。
「これはむしろチャンスだ!
明日、記者が俺の家を記事にしてくるんだから
俺の評価が上がるようにしなくちゃ!!」
俺は片っ端から大工を雇って、
明日までに豪邸を作るように連絡した。
「そんなむちゃくちゃな……」
「金はあるんだ! なんとしても明日までに作り上げろ!!」
信じられない人数で家の改築工事が始まった。
家の敷地内には、大人数の大工がひしめきあう。
強引でむちゃくちゃな工事はなんとか翌日までに終わった。
金閣寺のように金箔を張り付けた豪邸は、
記事にするには申し分のないほどの存在感。
「いやぁ、みんなご苦労さん。お礼に弁当をおごってやろう」
俺は出前に電話して、高級弁当を出前させた。
家の敷地に入った出前の人たちは、大工全員に弁当を配る。
「ふふふ、これを記事にされれば俺の知名度もアップ。
これからの人生もバラ色間違いなしだな」
弁当をむしゃむしゃ食いながら未来に思いをはせる。
大工たちも、今回の仕事は相当に大変だったらしく
誰もがすっかり老けたように……。
「いや歳とりすぎだろ!?」
大工さんは誰もがヒゲも髪も床につくほど伸びている。
顔はしわしわになって、まるで10年どこかに漂流してたみたいだ。
「いったいどうなってるんだ!?」
驚き戸惑っていると、ちょうど朝刊が運ばれてきた。
家の外で朝刊を受け取り、日付を確認する。
10月10日(月)
それを持ちながら、家の敷地に入ったその瞬間。
10月11日(火)
日付が変わった。
やっとからくりに気が付いた。
「そうか! わかったぞ!
新聞が未来なんじゃないんだ!
この敷地に入ったら未来になるんだ!!」
それですべての説明がつく。
今日から1日が10年ぶんの長さになったから、敷地に入った大工は老けた。
敷地に入ったものは未来になるんだ。
納得したタイミングでちょうど記者がやってきた。
「おお! これが伝説の占い師の自宅なんですね!!」
記者は興奮気味にシャッターを切る。
これで今日の記事は、間違いなく俺の家を褒めちぎる記事になるだろう。
ぎゅるるるるる……。
「ん……あ、あれ? お腹が急に痛く……ああああ!」
額から脂汗を流しながら家のトイレに猛ダッシュ。
こんな状況でも、ついいつもの癖で新聞を持ち込んでいた。
「さ、さて……明日の記事は……」
【伝説の占い師、集団食中毒で病院に搬送後、死亡】
「なになに? まるで10年放置されたような弁当を食べた
今売れっ子の占い師と大工が食中毒で病院に搬送。
治療もむなしく占い師は死亡って…………えっ?」
その日、俺の改築された家は記事になることはなかった。
弁当による集団食中毒の記事で差し替えられたからだ。
作品名:未来新聞が届いたら? 作家名:かなりえずき