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汗が滴り落ちる。
歩き疲れて脚の張りに、腰掛ける場所をと、鴨川に架かる橋から川の水際まで下りて、そこに脚を腕に抱える格好に腰を下ろす。今日の暑さの体が茹でるようなのを、揺れる木陰で水の上に漂う泡の流れるのを眺めていた。団扇をパタパタと考えに考えていた。
ふと、ひょこひょこと姿を表した爺さんが横に腰掛け、話し掛けてきた。最初はこの暑さのから、他愛もない世間話や次第にお互いに踏み込んだ話へと流されるように口が動きあっていた。
その爺さんにはアメリカ人の奥さんを貰った息子がいるらしく孫がハーフで可愛いのが仕方のないらしい。この地に脚を運んだばかりの私には伝統としてある街が何でもかんでもを飲み込んでしまう渦のように、ぐるぐると回っているのを知るにはもう少し脚を運んでみなければならないのであった。
「鴨川は、水が澄んどって鮎がとれるもんだから、鳥がよう集まってくる。でもなぁ、いつの時代でも本当に綺麗なものは絶えず同じ所を流れんで、金に靡いてしまうんよ。金がないのは、いけない。頃合いだと、仕舞いに私の手を取ったのは綺麗な人でなく、腕のある女主人だったのぉ。」
そう口にして手近な石を爺さんは川に投げた。この川には病気で妻に先立たれてからよく訪れているそうだ。
「蔵の一個や二個やくらいのを持っとったらのぉ。一人残されてしまうなんてのぉ。」
それから陽の半分くらい傾くまで語った頃に私は駅に行かねばならないと告げて腰を浮かし、そこで別れた。爺さんにせを向けて十歩いや二十歩程のところだったか。ふと、後ろを振り向いた時、爺さんの姿はなくなっていた。
作品名: 作家名:右左