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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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お腹アンダーザーワールド

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「私、できちゃったみたい」

「できたってまさか……」

「そう、子供よ」

夫は大喜びで、それこそ子供のようにはしゃぎまわった。

「それで! 男の子か!? 女の子か!?」

「どっちがいい?」

「男に決まってるだろ!!」

夫は迷わず答えた。
一方で、妻としては夫婦で考えが会わなかったことに不満げ。

「え? 女の子じゃないの?」

「男の方がいいに決まってるだろ!
 いろんなことに興味を持って、いろんな場所に出かけられる!
 たくさん研究して自分の道を見つけていくんだ!」

「ちょっと待って。それじゃもし生まれても不幸になるわ。
 男の子にしたとして、大事なのはその子の意思を尊重することよ」

「子供に世界のどれだけが見えてるんだよ!
 オトナがチャンスを与えて、そのうえで選択させなくちゃ」

「それはあなたの好みの押しつけじゃない。
 自分の理想像を子供になぞらせてるだけよ」

「ああーもう! なんでこうなるんだ!!
 男の子が生まれたらってもうずっと考えていたのに!!」

話せば話すほどお互いの溝は深まり続ける。
助け舟を出すように夫は話題を変えた。

「それじゃ、女の子にするんならどうするんだ?
 今や子供なんて生まれる前にいくらでも調整できるだろ?」

子供が生まれた後で才能などの差が生まれることは差別だ。
そんな考えから、子を宿した時点でどんな子にするか設定できる。

これにより個性を殺さずに、差別をなくすことができる。

「女の子なら、ピアノを習わせてあげたいわ。
 そして、友達と一緒にケーキ屋さんで働いたり……」

「はぁ? 女の子だったら、結局お前も自分の理想を
 子供に重ね合わせているだけじゃないか!」

「ちがうわ!」
「ちがくない!」

「ちがう!」
「ちがわない!」

「ちっ」「がわな!」

2人による押し問答は長く続けられ、
お互いに疲弊した先で妻は口を開いた。

「もういいわ! 私産まない!」

「え、ええ!?」

「どうせこのまま産んでも、子供の教育方針でもめるに決まってる!
 だったらいっそ生まない方がいいわ!」

「中絶するってことか!?」

「そんなわけないでしょ!?」
「ええええ!?」

ますますわからない。
夫の目はテンになった。

「大きくなるまで待つのよ。
 幸い、この世界では子供が大きくなるまで
 おなかの中で育てて大人にすることができるわ」

「赤ちゃんの状態で生むんじゃなくって、
 大人になってから産むってことか?」

「そう。お腹の中で大人になることだってできるもの!」

たしかにそれなら、子供がおなかにいる状態で
必要な情報を選別にして伝えることができる。

子供がぐれることもなければ、変なものに興味を示すこともない。

「なるほど、それはいいな」

「体と心が成長しきった大人になったら生みましょう」


それからしばらくして、子供は大きくなった。
母胎で大人になった子を産むと夫の方へもってきた。

「あなた! 産まれたわ!!」

「はじめましてお父さん。あなたの息子です」

しかし、父親はどこにもいなくなっていた。

「あれ? どこにいったのかしら?」

必死に探していると、ちょうど産道が開いているのを見つけた。

「ああ、もう産まれちゃったのね」

 ・
 ・
 ・

母親から生まれたのは成熟しきった男だった。

「はじめまして。母胎結婚をしていました、父親です。
 これからよろしくお願いします」

産まれた男は、母胎時の設定どおりの理想の男になっていた。
礼儀正しく、ジェントルマン。

男の出来に満足した母親は自分のお腹の映像を眺めた。

「さて、女の方はいつ産もうかしら?」