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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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ここに来た(全集) 21カ所目追加

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18 ホノルル(アメリカ ハワイ州 オアフ島)



毎年12月に開催される一大イベント『ホノルルマラソン』
夫婦で2度、出場したことがある。

早朝、まだ暗いうちにスタートするのだが、自分の実力を過信してはいけない。
スタート地点周辺には、本気のランナーが集結するので、生半可な気持ちでそこに並ぶと、ペースに着いて行けず、踏み潰されることになりかねない。
私たちは仲間と一緒に、完走タイム5時間ぐらいが目安の位置に並んだ。

そんな後方でも、一斉に花火が上がると、スタートの時間になったのが分かる。
はじめは、ダウンタウン周辺をぐるりと回り、ホテルが立ち並ぶワイキキビーチ沿いを、ジョギングくらいのペースで走っていると、夜が明けだす。
動物園を過ぎて、清清しい朝日に照らされたダイヤモンドヘッドに向かって、上り坂に差し掛かる頃、前方からゴール間際の第1集団が帰って来るのとすれ違う。

ダイヤモンドヘッドの裏側の海沿いは、恐ろしいほど長い直線コースになり、途方に暮れることとなる。
何時頃だったか、私は気が狂いそうなほどお腹が空いてきた。
道路沿いでは、給水所などに応援で集まった人が、クッキーなんかを配ってくれるが、そんなものではこの空腹感を満たせやしない。

ふと前方にマクドナルドが見えた。
幹線道路の右側半分を封鎖して、マラソンコースとなっているのだが、左の対向車線の向こうに、神々しく光り輝くその店はあった。
私は妻と、車の走る道路を横切り、朝マックをテイクアウトした。
それを見て、後続のランナーたちも、続々とマクドナルドになだれ込んで行った。
ま、ここは自由の国、パラダイスなのだ。

山手の住宅街に入ると、きれいな家が立ち並ぶエリアになっていて、目が飽きない。
その住人が、キャンディやチョコを庭先で配っていたり、自宅のベンチで休憩を取らせてくれたり。
こんな場所に住んでみたいと、楽しく会話しながら走ることができた。

折り返し地点を過ぎた頃、妻の膝に痛みが走り、走れなくなった。
2回の挑戦も、2度とも同じエリアで膝に故障が発生し、あとは歩くしかなかった。

再び海沿いの長い直線では、話す気力もなくなるが、時折ストレッチしながら、眼下に見える、高く上った太陽が照らすキラキラの海に、再びテンションを取り戻した。
コース沿いの応援のステージで、バンドマンが大声で歌うのにリズムを合わせて、ただひたすら歩く。

再びワイキキの街が見えるダイヤモンドヘッドの高台には、すでにゴールしたランナーたちが、戻って来て応援してくれていた。
「大丈夫か? もう少しだ。がんばれ!」の声援に妻が、「膝が痛い」と泣き言を言うと、
「みんなも痛い。痛いだけだから大丈夫!!」 

制限時間がないのは、いいじゃないか。
たとえ24時間かかろうとも、ランナーにその意思さえあれば、完走できるのだから。
諦めなければ必ずゴールにたどり着く。
こんな環境で人生を送りたいものだ。

ゴールで完走者にだけもらえる「フィニッシャーズ・Tシャツ」。
翌日それを着て町を歩くと、誰もが「Conguratulations!(おめでとう)」と声をかけてくれる。
街角で配られる新聞には、完走者全員のタイムと名前が掲載されている。