幽霊アパートの試し方
「その切り出し方だと、嫌な予感しかしないんだけど」
「そんなことないよーー、聴いてよ聞いてよ」
「はいはい。怖いのはやだからね」
「怖くない怖くない」
友達は私が幽霊とかそういうホラー系のものが苦手と知っていて、
いつも楽しそうにその話題を振ってくる。
「家のインターホンって押したことある?」
「当たり前じゃん」
「いや、そうじゃなくて。自分の家のだよ。
自分の家のインターホンを、自分で押したことってある?」
「……え?」
私の部屋は一人暮らし。
上京してもう2年になるけど、そんな奇妙な行動をとったことはない。
「……やったことないけど」
「実はね、自分の家に幽霊が住み着いているか調べられる方法があるの」
「やっぱ怖い話じゃーーん!!」
私は耳を覆って布団をかぶりたくなったがここは大学。
せいぜいが耳を覆うくらいしかできない。
といっても、ここまで聞かされた以上すべての全容を聞いておかないと
かえって怖いので話を聞くことに。
「自分ひとりのときね、ひとりで家を出るじゃん?
そして、玄関の前でしばらく待つの。自分が出て行ったとわかるように。
そのあとで、インターホンを鳴らすの」
「……それで?」
「それを3日それぞれ1回ずつ行って、
誰もいないはずの家から声がしたら……幽霊がいるの」
「ええええ……」
「あははは! やっぱあんた怖がらせると面白いわぁ!」
「やめてよ!! あたしの近所、昔噂になったんだから!
そういう話されると、ほんとに怖いんだよ!!」
爆笑する友達に私は猛抗議。
また眠れぬ夜を過ごすことになりそう。
「あれだっけ? あんたの近所の近くで殺人事件があったって。
え? まさか、あんたの部屋いわくつきなの!?」
「ちがうよ!! ぜんぜんちがうよ!
ちゃんと入居前にそういうのしっかり調べたし!」
「なら大丈夫じゃん」
「そうだけど……」
私の近所では昔女性の殺人事件が起こった。
犯人は結局見つからずじまいで、事件も風化してしまった。
とはいえ、私がそんなおまじない?をしたことで
殺された女性の幽霊が私の部屋に吸い寄せられでもしたら……。
・
・
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「はぁ……やっぱり聞くんじゃなかった」
家に帰ってからも、頭にはあのインターホンのことばかり。
幽霊がすでにいるのか試してみたいけど、
もしかして、これが原因で幽霊がやってくるかもしれない不安もある。
試そうか?
やっぱりやめよう。
でもやっぱり……。
止めておこうかな。
いや、でも――。
「やっぱり試そう!!」
幽霊がいる/いないに関わらず、とにかくこの葛藤から逃れたい!
私はひとりで家を出て、ドアに鍵をかけた。
そのまましばらく待って、完全に気配を消す。
……冷汗が流れる。
インターホンに指を伸ばす。
指先がぶるぶると震える。
――ピンポーーン……。
「はぁ、よかったぁ」
一瞬だけ緊張から解放された。
バカバカしいと思ってはいても、やっぱり怖い。
実際、初回さえなんとかなれば後は大丈夫。
ちゃんといわくつきじゃないのかを綿密に確認したし、
知り合いの霊感が強い人にも見てもらって「大丈夫」とお墨付きを受けている。
そんな私の部屋、102号室にまさか幽霊がいるとは思えない。
翌日も会社から帰ってから、誰もいない家のインターホンを押した。
――ピンポーーン……。
ま、フツーに反応はない。
鍵を開けて中に入って、明日の休日の予定を決めた。
翌日、夜の合コンに備えて着替えて家を出た。
「あ、そうだ」
すっかり忘れていた。
私はしばらくそのまま待ってインターホンを押す。
――ピンポーーン。
反応なし。
はい、これで終わり。
私は合コンへと向かった。
"はーーい"
足が止まった。
冷汗が止まらない。
聞き間違いなんかじゃない。
たしかに私の部屋から声がした。
男? 女? わからない。誰、だれ、だれ……!?
足が震えて目の前がゆらぐ。
怖くなってすぐに霊感の強い友達に連絡をした。
「もしもし!! お願い助けて!!」
『うんわかった。すぐ行く』
友達は事情を詳しく聞く前にすぐ来てくれた。
私が事情を話すと一緒に部屋に入った。
「……どう? 幽霊居る?」
「ううん、いない。大丈夫だよ」
「でも声が! 声がしたの! 確かに聞こえたの!」
「うん、わかった。それじゃ除霊だけはしっかりしておこっか」
友達は察しがよかった。
"聞き間違えじゃない?"などと私を否定することなく、
安心させるためにしっかり除霊をしてくれた。
さらに、大家さんにもかけあって霊が近寄らないように
家の周りにも除霊というか結界を張ることに。
「私が除霊をしてると、住民の人が不安になるかもしれないので。
先に大家さんには理解してもらおうかなと」
「わたしゃいっこうにかまいませんよ。
でも、幽霊はいないんですよね?」
「はい、あくまでも念のためです。
この建物そこそこ古いから、霊が寄ってきやすいんです。
たまたま霊が通りかかった可能性もありますから」
「ああ、でしたら、改築も一緒にしましょうかねぇ。
やろうと思っていたけどタイミングがなかったものでねぇ」
「え!? いいんですか!?」
なんだか話が大きくなったことに、私は驚いた。
でも、新しく直してもらえるならこれほど心強いことはない。
私の住む部屋には、壁の奥に守りのお札か何か張ってもらおう。
「改築というか、一度完全に壊してから作り直すよ。
新しいアパートができるまでは、こちらに住んでくれるかぃ?」
「大家さん、いくつアパート持ってるんですか……」
「秘密じゃて♪」
大家さんの厚意もあって、私は一時的に近くの別アパートに住むことに。
窓から見える景色に、前のアパートの取り壊しを眺めていた。
ショベルカーがアパートを容赦なく切り裂き、鉄球が壁を破壊していった。
工事が終わったころ、そのアパートはニュースになった。
『こちら現場です。
取り壊し作業の最中に、部屋にいた男性が死亡した現場です!
男性の死体は102号室の天井裏から発見されました!』
『また、男性の身元はかつて女性殺人事件で逃走中だった
連続殺人犯で102号室に住んでいたと思われます!!』
作品名:幽霊アパートの試し方 作家名:かなりえずき