小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
黒猫ぺろり
黒猫ぺろり
novelistID. 38665
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

健康診断

INDEX|1ページ/1ページ|

 
人間の運命はルール通りに行われるチェスというより
むしろ宝くじを思い起こさせる。

~エレンブルグ(1891-1967 作家)



ここではない、どこか、
いまではない、いつかの出来事である。


 
「知ってるか、今日の健康診断で
寿命測定されるらしいぞ」
「寿命測定?」
「あぁ、なんでも高齢化社会に備えての対策として
 政府が測定を義務付けたらしいぜ」
「寿命測定かぁ、それ当たるのか?」
「あぁ、なんでも的中率は80%以上らしいぜ、
 噂じゃ結果を人事の参考にしている
 企業があるんだってさ」
「でも、自分の寿命が分かるってのは複雑だなぁ」
「まぁ、あくまで参考値だからな、
 健康状態で変わるらしいから
 体重を測るみたいな感じじゃないかな」
「そっか、そう言われるとちょっと楽しみだな」

「次の方、柴田さん。寿命測定へどうぞ」

「あ、俺の番みたいだな。ちょっと行ってくるよ」

元気に返事をしながらも柴田は
ぎこちない足取りでブースに向かった。
何だかんだ言って柴田は不安なのかもしれない。
  
それから暫く待合室で順番を待っていると
今にも死にそうな顔で柴田が出てきた。
ヨロヨロと歩きながら私の前にたどり着いた瞬間、
柴田は床に崩れて泣きそうになりながら叫んだ。

「俺は、こんな寿命測定の結果なんて
 絶対に信じないからな  
 こんなのは占いと一緒だ!!
 体重測定よりあてにならない!!」

柴田がこんなに取り乱すのは珍しい。
とりあえず座るように柴田をなだめながら、
私は結果が記入された紙を盗み見た。

  『予想寿命:29歳(Rank C)
   生存可能年数:1年』

私はその瞬間、柴田が取り乱した理由が分かった。
それと同時に、私はこの寿命測定に憤りを感じた。

その時だった、審判の時が私にも訪れた。

「次の方、野崎さん、寿命測定へどうぞ」

私は柴田をしっかりと椅子に座らせブースへ向かった。

ブースに入り、案内されるがまま機械に両手を
差し込んだ。たったこれだけで寿命が分かるというのか?
確かに柴田が言うとおり占いみたいなものだと思った。
そして、結果が出力された紙を見た瞬間、
私は柴田に申し訳なくなってしまった。

  『予想寿命:103歳(Rank A++)
   生存可能年数:75年』

外にでると柴田は私を待っていたらしく
私を見るなりたどたどしい声で聞いた。

「野崎、結果はどうだった…」
「もう大丈夫なのか?」
「あぁ、俺の寿命は俺が決めるぜ」
「そっか、それなら大丈夫だな」
「で、お前はどうだったんだ?」
  
そう言うなり柴田は私が後ろ手に隠していた
結果が記入された紙を無理矢理奪い取った。

「お前…」
「いや、柴田…隠してた訳じゃないんだぜ」

何とも言えない気まずい空気がその場を
支配したかのように思えた。
  
が、しかし。

「良かったなぁ、野崎。俺の分まで長生きしろよ!!」
「…あぁ…分かったよ…」

柴田は何故か急に明るくなり
さっきまでの足取りが嘘の様に軽快にその場を去った。

その後、健康診断が一通り終わったので、
会社に戻る事にした。

それにしても、自分が長寿になれるだなんて、
思っても見なかった。これからの長い人生をどうやって
生きていこうか。こうなったら世界記録でも
目指して見ようかな…。

「野崎!!危ない!!」

その瞬間、視界が暗くなった気がした。
どれくらい経ったのか分からないが視界が明るくなった。

私は気を失っていたのだろうか…?
そういえば柴田の叫び声が聞こえたような…

一体、私に何が起きたのだ…?

柴田が何かを覗きこんでいる姿が見えた。
柴田の視線の先には

血だらけの私が倒れていた…。

(了)
作品名:健康診断 作家名:黒猫ぺろり