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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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よく聞け、盗聴ラジオ

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それはポテトチップスを食べながら、
炭酸ジュースを飲んでいるだらけ切った昼下がりだった。

「あ……」

ふと部屋の隅に昔懐かしのラジカセを見つけた。
いまやカセットなんてどこにもない。

「カセットはないけど、ラジオは生きてるかな?」

アンテナをこれでもかと伸ばして、
両脇のスピーカーに耳を澄ませる。

砂嵐をさまよった先で、会話が聞こえてくる。

『……だから結局現代の音楽はテンプレなんだよ』

なにか話しているみたい。
でも、ぜんぜんラジオっぽくない。

しいていうなら……。

「なんだか普通の会話みたいだな」

『最近の曲ってどれを聴いても同じに聞こえるだろ?』
『ああ』
『それは音楽を作るひな形が同じだからだよ』

音楽関係の話をしている。
そんなとき外を見ると、ラジオとまったく同じ口をしている2人が歩いていた。

『だから俺たちバンドはもっとこうどかーんと……』

外を歩く男はラジオの声がアテレコするように大幅に手を広げている。
まさか、あの2人の会話を拾ってきているのか! 信じられない。


「これは……絶対にばれない盗聴ラジオなのか!!」


俺はすっかりラジオの魅力に取りつかれた。

最初こそ自分の悪口などが出ていないか確認するはずだったが、
そもそもチューニングはランダムなのと、
普通に人の会話を盗み聞きするだけで楽しくなった。

『てか、カレシと別れたじゃん。それでさーー』

『自衛隊が国軍になる日はない! 建軍の本義はない!』

『それじゃ次はワシの出番かのぅ。はてはて……』


ギャルの会話から、よくわからない難しい会話。
おじいちゃんの会話まで盗聴し放題。

チューニングを変えるたびに自分とは縁もゆかりもない世界が開かれる。
これほど楽しいことはない。

テレビの"客相手"に魅せるうさん臭さはない。
盗聴ラジオからは生々しい個人の主張を聴くことができる。


またチューニングを切り替えた時だった。


『……うぅ……どうして……どうして……』


すすり泣く声が聞こえた。
普段ならスルーするところだが、
声の主に聞き覚えがあったのでつい手が止まる。

『こんなに早く死んじゃうなんて……うぅ』

間違いない。
この声は母親だ。

漏れ聞こえてくる環境音はどうやら葬式会場らしい。

『昔からそそっかしいとことはあったけど……』

なおもすすり泣く母親の声。
その後ろから、ほかの参加者の声も盗聴されてくる。

『感電ですって……怖いわね』
『私もぬれた手で触らないように気をつけなきゃ……』

すぐに母親に連絡して状況をつかもうとも思ったが、
葬式に出席している以上、電話の電源を切っている可能性が高い。

「もしかしたら、俺の地元の友達が死んだのかも!!」

そう考えるといてもたってもいられない。
食べかけのポテトチップスも炭酸ジュースも片付ける。

事情はわからないが、とにかく母親のもとへ戻らなきゃ!

ポテチの油でべとべとになった手を洗う。
すぐに出かけようとしたとき、つけっぱなしのラジオに気が付いた。

「やっべ。電源切るの忘れてた!」

玄関で靴を履いてしまったわずらわしさもあり、
ラジカセのコンセントを直接抜くことにした。

コンセントに手をかけて……。


ビリリリッ!!!


体中に電源が走った。

 ・
 ・
 ・

「南~~無阿弥~~陀仏~~……」

葬式はしめやかに行われた。
あまりの突然の出来事に母親は泣いていた。

「……うぅ……どうして……どうして……。
 こんなに早く死んじゃうなんて……うぅ」

息子の突然の感電死に言葉も出ない。

「昔からそそっかしいとことはあったけど……」

「感電ですって……怖いわね」
「私もぬれた手で触らないように気をつけなきゃ……」