REPLAY⇔RETRY
20年も人生を過ごしていると、
もう新しい出会いやイベントは限られてくる。
子供のころのようにきらきらと毎日輝くことはない。
どんより灰色の曇り空で、毎日変わり映えしない。
『8時になりました。7/29金曜日のニュースです。』
「やれやれ、行ってくるか」
時間に追われるようにして大学へと向かう。
楽しいことが待っているわけでもなく、
退屈な毎日をごまかしているような、そんな消極的な理由。
その日も、学校へ行く→家に帰る→寝る。
いつものように過ごして1日が終わった。
きっと、将来に今日を思い出すことはないんだろうな。
翌日、テレビをつける。
『8時になりました。7/28木曜日のニュースです。』
「え?」
ミスかと思った。
けれど、アナウンサーはやや焦りながら続ける。
『地球の公転向きなどから、本日は7/28に間違いありません。
みなさん、この世界は逆再生されています』
テレビではこの世界が逆再生されている証拠を
VTRなどで細かく紹介していた。
俺は鏡の前に立つと、自分のヒゲを見てみる。
「のびてない……というか、むしろ短くなってる!」
時間が逆転した。
それはつまり……。
「俺の余命……20年ってこと!?」
20年経ってしまえば、受精卵に戻ってしまう。
それは死ぬことと同じだろう。
でも、不思議と抵抗はなかった。
むしろ嬉しさがあった。
「また子供のころを体験できるのか! やったー!」
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大学も入学を終え、俺は高校生活の卒業式を行った。
「えーーみなさん。卒業式とはいえ、
これからこの学校で学んでいくことになると思います。
これはある種の入学式かもしれません」
くそ長い校長の話も今では楽しい。
勉強はさっぱりわからなかったけど、日を追うごとに簡単になるはずだ。
逆転しているから。
数日も過ごしていると、だんだん気付き始めた。
「……あんまり楽しくないな」
20歳のときはあんなに戻りたかった学生生活。
青春と出会いとイベントに満ちていたはずなのに。
いざ、この空間に来てみても期待していたほど
キラキラと輝く日々が待ってるわけじゃなかった。
「うーーん。もしかして、俺の心が大人になったから
今ぜんぜん楽しめてないのかもな。
中学生のときならきっと楽しいはず!」
そんなこんなで、中学生までこの世界は遡った。
見える景色も低くなり、顔つきも幼くなったのがわかる。
「ようし! 中学生活を楽しむぞ――!」
けれど、待っていたのは高校生活となんら変わらない毎日。
これなら大学生活ともたいして変わらない。
周りの人たちが中学生か、高校生か、大学生かの違いだけ。
「おっかしいな……ぜんぜんキラキラしてないぞ。
しょ、小学生! 小学生ならあるいは……!!」
中学の3年間を必死に過ごして、待ってましたの小学生パート。
懐かしいウサギ小屋や、アサガオなどを見て胸が躍る。
「やっぱり小学生だろ!
さぁ、充実した毎日を送るぞ~~!!」
けれど、やっぱりいつもの毎日だった。
なんなら行動範囲が広い大人の方がまだ楽しかったくらい。
「な、なぜだ……あんなにもキラキラしてたはずなのに……!」
時間の逆再生にあわせて、年齢も幼くなっている。
「うんこ」だけで笑えちゃうくらいに。
体も心も小学生になってきているのに、
あんなに憧れていた「キラキラ感」はもうない。
あれは幻想だったのか……。
「小学生より前には期待できない……。
これでもまだ楽しめないなんて……いったいどうすれば……」
月日は無情にも過ぎていく。
思い返してみると楽しかったはずのラジオ体操。
充実していたはずの秘密基地づくり。
あんなに戻りたかった小学生の生活。
「こんなに……"普通"だったっけ……」
小学校の入学式を終えて、義務教育から解放される。
俺は幼稚園の生活になる。
かつての自分とそう年齢が変わらない大人が迎える。
「はーーい、みんな今日もいっぱい遊びましょうね!」
紙芝居とか縄跳びとかお遊戯会とか。
こんなの全部"普通"じゃないか。
「あれ? そんな隅っこでどうしたの?」
「ぼく、思っていたのと違うんだ……。
おとなになったときはあんなに充実していたのに、
いざ時間が戻って体験してみると、ぜんぜん楽しくないんだ」
保育士はにこりと笑って、俺の頭に手を置いた。
「それはね、君が今を楽しんでないからじゃないかな?」
「え……?」
「昔はよかったって、思い出の追体験をしようとしてるでしょ。
でも、それじゃきっと楽しめないと思うの。
昔と比べたりじゃなくて、今を全力で楽しむから
きっと後で"いい思い出"だって振り替えられるんだよ」
「せ、せんせい……!」
目が覚めた。
今思えば、俺が求めていた"キラキラしていた時間"は
その時にはぜんぜん感じていなかった。
"ああ、今とっても充実してる"なんて少しも思わなかった。
ごくごく普通の毎日を過ごしていた。
でも、そのときは昔と比べたりしてなかった。
「そっか……普通の毎日が、あとで特別になるんだ!」
それからの日々は、今思い返しても最高に楽しかった。
今ではベビーベッドの上で寝たきりの生活だ。
俺の意識ももうなくなるだろう。
いつしか自我が芽生える以前まで体は戻り、
赤ちゃんの前に戻っていく。
ああ、もう死にたくない……。
体は赤ちゃんらしく頻繁な睡魔に襲われる。
俺は静かに目を閉じた。
そして、受精卵まで逆再生して戻っていった。
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・
・
おぎゃあおぎゃあ!!
「元気な男の子ですよーー。良かったですね」
分娩台では憔悴しきった親の姿。
それを見て気が付いた。
「え……今度は逆再生されてない……!?」
この後、20歳までの生活がはじまった。
20歳になると再び逆再生が始まる。
このループ、これを書いている時点でもう3ループ目だ……。
作品名:REPLAY⇔RETRY 作家名:かなりえずき