ノベリストのレーザーポインター
長い距離光が届くだとか、
たいして嬉しくもない機能を説明している。
さらに、表記は日本円じゃないから高いか低いかもわからない。
「こんなの買うやついるのかよ」
俺以外に。
そう、俺は買ってしまったのだ。
緑色の業務用レーザーポインターを。
海外の意味不明なサイトから取り寄せることに成功した。
そして今、絶賛後悔中である。
「やれやれ……高いわりにはただのポインターかよ。
多少は変化ついた光とか出せるかと期待しちゃったよ」
出せる光はまっすぐな1本のみ。
やっぱり買うんじゃなかった。
的もないので、なんとなくドアに照射していると
ふいにドアが開いて親が入って来た。
「ちょっと。お母さん、パソコンでわからないことが……」
ノックもせずに入った母親のおでこに、
照射しっぱなしだったレーザーがそそがれる。
目じゃなくてよかった。
「……なに? あんた、また変なもの買ったの?」
親は不機嫌そうにポインターを見る。
「いや、これは……と、友達の忘れ物で……」
「うそね、ノベリストとかいうサイトの
怪しげなレーザーポインターを買うなんて正気じゃないわ。
それにその値段! もっとましな使い方をしなさい!!」
「ど、どうしてそこまで!?」
親にはサイトのことを一度も話していない。
なのにどうしてここまで……。
「まさか、この光って……思考をレーザーにしているのか?」
バカげた発想ではあるものの、試さずにはいられない。
友達を呼んで実験してみることに。
「クイズ! 俺は何を考えているでしょう!」
レーザーを友達の体に差し込む。
「……おなかへった?」
「正解! どうしてわかった?」
「いや、なんつーか……スッと入ってきたつーか」
やっぱりだ。
このレーザーポインターは思考をレーザーにできる。
友人は俺のレーザーポインターを見つめる。
「おい、その手元にあるスイッチは?」
「ああ、これは光量の調節スイッチ。
回すと光の量が多くなるんだ」
「ちょっとやってみてよ」
「だ、ダメだ!! 絶対にダメだ!!」
「どうしたんだよ急に……なんでダメなんだ?」
「とにかくダメだ!! 絶対に触らせないからな!」
友人と別れると、家に帰ってこの素晴らしいレーザーポインターを宣伝した。
海外の人もわかるように言語は英語。
ノベリストにも多くの宣伝を差し込んだ。
こんなにも次世代のレーザーポインターがあるのに、
誰も使わないなんてもったいない。
……が。
俺の宣伝むなしく、はやることなどなかった。
そもそも大して日常生活に必要でないレーザーポインター。
よほど好きな人じゃないとお金を出して買わないだろう。
「そうだ!! 必要性を作っちゃえばいいんだ!!」
1年後、世界は激変した。
俺の開発した(ことになってる)「光対話」は、
これまで文字や言葉で行っていたコミュニケーションをがらりと変えた。
自分の考えていることなんて、
レーザーを照射すれば一発で相手に通じる。
翻訳することも必要なければ、
口下手の人でも考えていることを伝えられる。最高だ。
光ファイバーを通して、遠くにいる人にもレーザーを届けられる。
わずか1年で世界のコミュニケーションを変えた俺は
世界の偉人と世界の億万長者の中にダブルランクイン。
今では水着の美女に囲まれながら、
札束の入ったプールに肩までつかっている。
「すごいわぁ、あなたみたいな人って
自分の欲しいものはなんでも手に入っちゃうのね」
「なんでもじゃない。
絶対に手に入れられないものもある」
「え? 例えば?」
「それは言えない! 絶対に言えない!」
その瞬間だった。
すべての明かりが消えて何も見えなくなった。
「わ! な、なんだ!? 停電か!?」
急な停電だったのでろうそくもなければ電灯もない。
スマホはどこかにあるが場所は見えない。
「ポインターを使うのよ」
「そ、そっか!」
どこからか聞こえる声にしたがってレーザーをつける。
細い光の線が天井へと突き刺さる。
「そんなんじゃちっとも見えないわ!
もっと光量を上げて!!」
「あ、ああ!」
光量を最大限に上げる。
光で作られた天井のサークルは大きくなる。
「これでいいか? でも、ポインターだから明かりには……」
ならない。
と、言いかけたところで俺の最大照射レーザーの前に手が横ぎった。
明かりが復旧すると、
それまですり寄って来た女が全員壁際に下がっていた。
「さっき光を通してわかったけど、あなたって……」
「幼女が好きなんて変態よ!!」
「自分の本性をばれたくないから光を抑えてたのね!!」
「ああ、そうだよ! だから嫌だったんだちくしょーー!」
俺は開発段階だった「催眠レーザーポインター」を試すことにした。
まもなく、全員が「ノベリストでレーザーの宣伝をする」という洗脳にかかるだろう……。
作品名:ノベリストのレーザーポインター 作家名:かなりえずき