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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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あなたは右へどうぞ

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「いいか、ここが国境になる場所だ。
 良い人間は右に通せ。
 悪い人間は左に通すんだ」

「善人が右、悪人が左……ですね」

「そうだ。良い人間だけの国ができたら戻ってくる」

上司はそれだけ言い残してさっていった。
残された部下は歩道に立っていた。

目の前の道路を挟んで、向こう側にも歩道がある。

気温は30度を超えた炎天下。
立っているだけでも視界がゆがむ。

そこに、顔に斬り傷だらけの男がやってきた。

「よぉ、兄ちゃん。
 俺は人を切り刻むのが大好きなんだ。
 俺はどっちに行けばいい?」

「左です」

あんな男と同じ世界にいれば命どころか
体がいくつあっても足りないだろう。

対岸にある歩道をぼーっと眺めながら待っていると、
今度はオカマっぽい男がやってきた。

「私は男性のみを狙うレイプ魔なんですぅ。
 どっちに行けばいいですぅかぁ?」

「左です」

「わかったわぁ……ところで、あなた。
 男色に興味あるかしらぁ?」

「左へどうぞ」
「連れないわぁねぇ」

オカマはくねくねと体を動かしながら去っていった。
あれと同じ世界にいたら、穴が一個増やされる。

向かい側の歩道を眺めながら待っていると、
今度は一見おとなしそうなメガネの男性がやってきた。

「みんな僕を見下しているんだ……。見下してるんだ……。
 いつか復讐してやる……家族も何もかも許さない……。
 どこまでも追い詰めて……必ず復讐してやる……」

「左です」

聞かれるよりも早く答えた。
この判断に関しては間違っていない自信がある。

ヤバそうな男はぶつぶつと何か言いながら去っていった。
同じ世界に住んでいたら、何で恨みを買うかわからない。

部下は時間を確認すると、上司が戻ってくる時間になっていた。

「あ、そうだ!」

とっさのひらめきで、部下は道路を渡って向こう側の歩道へと移動した。




しばらくすると、上司が戻って来た。

「ようし、仕事はちゃんとやっているみたいだな」

「はい、悪そうな人を案内しました」

「それはいい。じゃあ俺も案内してくれ」

上司はわざと形式ばって話し始めた。

「俺は部下に成長させてやろうとしている(=仕事押し付け)し、
 毎日、部下と親睦を深めようと飲み会を開いてる(=パワハラ)し
 時間管理力を上げようとさせている(=スケジュールの強要)」

上司はにたぁと笑った。


「俺はもちろんいい人間だよな?
 部下思いの最高の上司だよな? そうだよなぁ?
 だったら、どっちを行くか案内してくれよ」

「右です」

「そうだよなぁ! 右だよなぁ! あははは!」

上司は満足そうに右側へ去っていった。




上司が見えなくなると、また新しい人がやってきた。

「私は毎日ボランティア活動している身です。
 こんな私はどちらへ進めばいいでしょうか?」

「良い人間は、左へどうぞ」

部下はにこりと笑って案内した。
ちょうどそのころ、遠くから上司の悲鳴が聞こえた。