ここに来た7 テルアビブ
7 テルアビブ(イスラエル)
近隣諸国との微妙なバランスの中で、絶えず紛争が繰り返されてきたこんな中東の地に、まさか仕事で来ることがあるなんて、想像もしていなかった。
念のため、安全と思われるリゾートビーチ沿いにあるホテルを拠点としたが、その部屋のバルコニーからの眺望は最高だった。
左には中東独特の白い建物や塔が見え、右にはリッチなヨットハーバー。そして正面には、水平線まで何も無い穏やかな海。
夕方には、その海に真っ赤に染まった太陽が沈む。地中海の東の突き当たりにあるこの国は、サンセットの特等席である。
休日にはビーチに並ぶレストランのパラソルの下で、薄い水色に澄んだ海を見ながら、1日中冷えたビールを飲んで過ごす。ツマミには、フムスやピタといったなじみの薄いメニューから、オリーブやピクルス、はたまた絶品の海鮮グルメも堪能できた。
また夕焼けの時間になるとワインに切り替え、パスタやステーキなどの贅沢を惜しみも無く楽しんだ。
しかし、いつも日没頃になると南の方角から軍事ヘリコプターの編隊が北に向かって飛んでいく。ビーチの上空を左から右へ、バラバラバラと大きな音を立てるので、いやでもその光景を目にする。
郊外にある某企業の巨大工場の窓から、10kmほど離れた町に煙が上がっているのが見えた。それが、パレスチナゲリラの迫撃砲が着弾した煙だと知ったのは、その日の夕方だった。
現地の仕事仲間の話では、軍のヘリコプターがガザ地区に対して空爆を行なっていて、それに対抗するゲリラの反撃が各地で行われているそうだ。
その日の夕焼けは、いつも以上に真っ赤に燃えていた。
作品名:ここに来た7 テルアビブ 作家名:亨利(ヘンリー)