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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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ペットATMに預けていいの?

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「えぇ!? ここもいっぱいなんですか!?」

「はい、夏休み期間でペットを預ける方が多くって……。
 ケージの空きがないんですよ」

これで10件目。
どのペットショップもいっぱいで犬を預けられない。

「まずいなぁ……明日から10日間の旅行なのに」

ふらふらとさ迷い歩いていると、
ガラス張りの小さな店に大きめなATMが1つあった。

【ペットATM】

そう書かれている。


『いらっしゃいませ。ご利用する内容を選択してください』

・お引き出し
・お預け

とりあえず「預ける」を選択すると、
大きなペット投入口がぱかっと開いた。

『預けるペットを入れてください』

不安そうにしている犬を入れてみるとふたが閉まる。


犬 ……1匹

  [確認]

確認ボタンを押すと領収書が出てきた。
すぐさまペットを引き出すと、まったく同じ犬が出てきた。

「おおお! これは便利だ! さっそく預けよう!」

ペットATMなんて便利なものがあるんだ。
これさえあれば、ペットショップを何軒も回る必要なんてなかった。

犬を預けると、安心して旅行へと向かった。
恋人と水入らずの幸せな長期旅行。


……のはずだった。


「もう意味わかんない! これじゃ全部台無しじゃない!
 そもそも道に迷うのがいけないのよ!!」

「君だって俺に任せてたじゃないか!
 自分ができないから俺に任せて、責任は全部俺か!」

「はぁ!? なによ!! 私が全部悪いっていうの!?
 だいたい、最初から私は嫌だって思ってたのよ!」

「今更何言ってんだ!!!」

俺が道に迷ってしまったことで、ホテルにたどり着けない。
大きな荷物を持ってきた恋人は疲れと苛立ちで激怒。

楽しいはずの旅行は汗と怒号まみれの最低な旅になった。

それも初日で。
今すぐ尻尾まいて帰りたい。

なんとかホテルにはたどり着けたが、
彼女は自分だけ部屋に入って鍵をかける。

「おいちょっと!!」

「あなたと同じ部屋にいるつもりないから。
 別の部屋でもとれば?」

関係は完全に最悪。
どうしたものかとホテルをうろうろしていると、
ここにも【ペットATM】を見つけた。

「そうだ……!」

そして、俺は解決策を閃いた。



その日の夜、フロントに恋人だという理由で鍵を借り
寝静まったのを確認してから彼女を連れ出した。

『いらっしゃいませ。ご利用する内容を選択してください』

[お預かり]

『お預かりするペットを入れてください』

開いた投入口に彼女を滑り込ませる。
ふたが閉じると、心がほっと安心に包まれた。

ニンゲン ……1

 [確認]

「ふぅ……これで旅行も楽しめるぞ。
 彼女も時間を置けば落ち着いてくれるだろう」

予定されていたこの先の旅程はすべて1人で楽しんだ。
彼女がいたら罵り合いにしかならなかっただろう。

旅行が終わって家に帰るころには、
俺自身もすっかり落ち着いていたので、
近所の犬を預けたペットATMへとやってきた。

『いらっしゃいませ。ご利用する内容を選択してください』

[お引き出し]

ニンゲン ……1  [確認]


引き出すと、彼女が戻って来た。
完全に怒りが引いているので、俺は素直に謝ることができた。

「このあいだはごめん。仲直りしよう」

「ええ、私もそう思っていたわ」

「君のいうように先に地図を勉強しなかった俺の準備不足だった」

「ううん、そんなことないわ」

「お詫びってわけじゃないんだけど、今度また行かないか?」

「本当?」

「うん。まだ場所は決めてないけどさ、きっといい場所にするよ」

彼女もすっかり怒りが引いているみたいで安心した。
やっぱり時間を置いたのは正解だった。

「それで、君はどこか行きたい場所とかある?」

「ええ、私もそう思っていたわ」

「は? いや、希望を聞いてるんだけど」

「本当?」

違和感を感じた。
まさか……。

「ねぇ、1+1はいくつ?」

「ううん、そんなことないわ」

疑問が確信に変わった。


「お前……お前誰だよ!?」

「ええ、私もそう思っていたわ」


ATM横に備え付けの電話機を取って本社へ連絡する。

「もしもし!! あんたンとこのATMから
 顔は同じなのに中身がぜんぜん違う人出てきたんだけど!!」

『お名前をどうぞ』

「佐藤だよ!! 早く彼女を返せ!!」

『佐藤さまは以前にも犬をお預けになっていますね』

「それがなんだっていうんだ!!
 それより出てきた人間はいったい何者なんだ! 別人じゃないか!」

『はい、ペットATMでは預けられた生体情報をもとに
 見た目が完全に同じクローンを作って引き出せるんです』

それじゃあの彼女はクローンなのか。
通りで答えにバリエーションがないわけだ。

「って、そんなことどうでもいいんだよ!!
 早く本物を返せ!」

すると、電話口の相手がふっと短い息を吐いた。


『大変申し訳ございません。
 大事なペットを自分の都合でATMに預けたうえ
 クローンだと気付きもしない方には飼う資格ありません。

 どこでも引き出せて、都合のいいことだけしゃべる
 クローンペットでご満足してください』