本当の世界
上杉一希が大きいスクリーンの前に座って居る。生徒達は腕 に着けているミラを開いたり、ミラで通話をしたり、パソコンを見たり、話をしていたりと各々好きにしている。上杉が静かに立ち上がる
上杉「皆さんは空白の15年を知っていますか?」
静まる教室
上杉「知ってますか?」
生徒A「・・・2101年から2116年の事ですよね?」
上杉「そうです。知ってますか?」
生徒B「・・・それ本当にあるんですか?」
上杉「あるとは?」
生徒C「歴史はちゃんとありますよね。だってあの年に起きた事とかきちんと残ってるし」
生徒D「大人が勝手に空白の15年とか言ってるだけじゃないですか?」
生徒E「どんなに調べてもあやふやな事ばかりだし」
生徒F「そうそう、まるで鮫島事件みたいな?当時のネット住人が作った」
上杉「そう思いますか?」
生徒G「証拠が無いんですよ。俺も調べたけど的を得ない事ばかり」
生徒H「15年の歴史だけだよな。オリンピックとか首相とか」
生徒I「15年で起きた事件とかね」
上杉「まーそうでしょうね」
生徒A「只の都市伝説ですよ」
生徒D「そうそう、調べたら殺されるとかね」
生徒E「お前殺されるじゃん」
生徒G「ピンピンしてるけど」
上杉「そうですね。あれを空白と呼ぶのは余りにも歴史があり過ぎる。時は待ってくれないとは本当です。きちんと動いてきちんと残っているんだから、それを空白とは呼ばない。誰が付けたんでしょうね」
生徒B「先生は知ってるんですか?」
上杉「はい。私はあの15年を生きてますから。皆さんはご両親とかお爺さんやお婆さんに聞いた事はありますか?」
生徒I「聞いてもなんか、はぐらかされますね」
上杉「でしょうね」
生徒J「・・・私お爺ちゃんに聞いた事ありますけど・・・」
生徒C「まじで!?なんて?」
生徒J「お爺ちゃんボケてるから信憑性無いんだよね」
上杉「なんて言ってました?」
生徒J「黒歴史」
上杉「・・・」
生徒B「黒歴史?」
生徒J「うん。只の黒歴史だって。あんな物あんな歴史はくだらない只の茶番だ。語り継ぐもんなんかじゃないって。人が人で居るための尊厳を無くすなんて馬鹿げてるとか」
上杉「確かにそうですね」
生徒E「意味分かんね」
生徒A「でも、本当にあったとしたら何があったんですか?15年も長い年月」
上杉「そうですね」
生徒C「なんで空白なの?だって」
生徒K「合わない部分があるんじゃないのか?」
生徒N「合わない?」
生徒K「お前調べたんだよな?15年の事。ならそこに記載されていた歴史の裏ずけとか調べたか?」
生徒G「嫌。歴史の教科書とかに書いてあった事とかばかりだったし」
生徒M「あーなるほど」
生徒K「そういう事ですよね?」
上杉「はいそうです」
生徒H「いや、意味分からんねーよ」
生徒K「俺達が知ってる歴史はちゃんとはきっとあったんだ。それは本当だ。でも合わない部分、空白。俺も調べた事があるが、所々まるで用意されたみたいな歴史がいくつかあったんだ。それはきっと空白の15年を隠すカモフラージュ。用意された歴史だ。その一番が俺達が毎日使ってるこのミラ。製造元や起源があやふやだ。どんなに調べてもなそこに鍵がある。そうですよね、先生」
生徒G「内乱、それを止めたヒーロー、王政制度、革命軍」
生徒I「これのどこを隠すんだ?どこにでもある歴史だ。世界中で起きてる。ミラだってあの反逆者鹿島誠司が作ったんだろ?」
生徒K「そう言われてるだけだろ。本当かどうかあやふやにされてる」
生徒G「あの年は今迄の日本じゃ有り得ない位、経済は右肩上がり、出産率の上昇、犯罪の減少」
生徒C「逆に孤独死、自殺が多かったみたいだけどね」
上杉「あの15年はきっと生活には困らなかったと思いますよ。放浪者や家出人など居なかった。いえ、出来なかったので」
生徒A「先生、何があったんですか?教えて下さい」
上杉「今から話す事は決していい話じゃありません。聞かなければ良かったと思うでしょう。泣ける恋物語でも無ければ、世界を救うスーパーヒーローもいない、感動のヒューマン物語でもない。一人の少年が少女を救えなかった、惨めな空しい物語です。きっと皆さんが求める答えは得られないと思います。もし、聞きたくないと思った方は出て行ってくれて構いません。明日からはちゃんと講義を行いますので。単位も皆さん全員に差し上げます」
誰も動かない
上杉「・・・全く皆さんは物好きですね。まあー私の講義を取ってる時点で分かってましたが・・・。どこから話ましょうか、そうですねー・・・やはり、彼女との出会いからですね。仲原澪と言う自由奔放なあの天の邪鬼の女性と出会い、始まり、終わる。世界を壊すまでの茶番劇は」