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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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葬儀屋の寿命回収屋さん

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たぶん俺だけかもしれないが、
他人の寿命が本の形で見えている。

分厚いハードカバーもあれば、薄い文庫本もある。
それはそれぞれの人に残された寿命。

――キキーーッ!!

「おい! 人がひかれたぞ!!」

そして、その日。
俺は偶然に事故現場に居合わせた。

車に引かれた男はすでに死んでいる。
惜しいことに男の寿命本は辞書のように分厚い。

「きっとこの先も生きていく予定だったんだな……かわいそうに」

ふと本に手を伸ばしたとき、
指先にたしかな感触を感じた。俺の手には辞書が乗っている。

「まさか……残りの寿命を回収できたのか!?」

びっくりして辞書を投げ捨てると、
集まった野次馬の頭へと吸い込まれた。
野次馬の一人の寿命本は上下巻ができるほどの超大作に。

意図せず寿命を延長させてしまった。
ぜんぜん知らない人に。

「これは……使えるかもしれない!!」

俺は今の会社をすぐに辞めて葬儀屋へと電撃転職した。


葬儀屋には毎日いろんな死体が運ばれてくる。
寿命を全うした人間も中にはいるけど、
大半は自殺したり病気でなくなったりと寿命本が残されている。

たくさん残っているものや、わずかしかないもの。

それらを集めては病院などにいって寿命本をおすそ分けする。

「おじさんありがとう!!」

「いいんだよ。俺にしか寿命本は見えないからね。
 見える人間がやるべき義務なんだよ」

もちろん、死んだ人の日々を集めたものだとは言えない。
寿命が延びたことを喜んで深くは聴いてこないのが幸いだ。


俺のねずみ小僧的な活動はどんどん話題になり、
最近では世界の長者番付に出てくる金持ちがやってきた。

「君かね、人の寿命を延ばすことができるゴッドハンドとは」

「医者じゃないんですけどね……」

「なんでもいい。わしの寿命を延ばせぃ。
 わしは金が有り余るほど持っている。
 しかし、使い切るだけの時間がない。寿命が欲しいんだ」

特にお金を求めていたわけじゃなかったが、
金持ちはこちらが寿命を渡すよりも先に大金を鼻先に突きつけた。

「5億だそう。寿命をのばせ」

「い、いいですけど」

いつものように寿命を延ばしてあげると金持ちは大いに喜んで去っていった。


数時間後、俺のもとに電話がかかってきた。
昔からの親友だった。電話がくるなんて珍しい。

「もしもし?」

『今どこにいるの!? 大変なのよ!!』

俺が5億を手にしたその日、友人が事故で死んだ。
小学校のころからずっと親友だった。

葬儀屋の仕事で人の死には慣れていたのに
人目もはばからずにわんわん泣いた。

友人の寿命はまだ残っていた。

友人の寿命を回収こそするが誰にも渡すつもりはない。
俺はそっと寿命本をはじめて開いた。

「あっ……!」

そこには、残された寿命ぶん現世で
お別れをするスケジュールが書かれていた。

「残った寿命は幽霊になってからの時間だったんだ……!
 それを俺は……奪っていたなんて……!」

寿命本を残して死んだ人は、
現世で未練が残らないように精算してから天国へ行く。

俺がやってきたことは、現世に留まる時間を奪っていたんだ。

「なんてことを……俺はなんてことを……!」

すぐに寿命の横流しを辞める決意を固めた。



廃業してから数日後、ふたたび金持ちがやってきた。

「君! すまんが寿命の延長をしてくれ!
 金ならいくらでも用意する!!」

金持ちの本は前に見た時よりも薄くなっていた。

「寿命が減ってしまっていますが、何をしたんです?」

「なにって、なんでもだよ。
 好きなものを喰って、好きなことだけしたのさ。
 今までは寿命を気遣って遠慮してたがもうその必要もない」

「そう……ですか……」

「さぁ、早く寿命を延ばせ!
 医者からは余命1年だと言われとるんだ」

「すみません。俺はもう廃業したんです。
 誰かの日々を奪うことをもうしません」

金持ちの顔色がいっきに赤紫色に変わった。

「なにぃ!? 何を言っている!
 金はいくらでも出す! 寿命を延ばせ!!」

「ですが……」

「どうしてもできないというのなら、殺す。
 ここにはスナイパーが控えているのだ。声も聞こえてる。
 1億円で雇える最高に腕の立つスナイパーだ外しはしない」

「脅してるんですか……?」

「これは交渉だ。取引に使われているの金と命というだけだ」

遠くでぎらりとスナイパーライフルの銃口が見えた。
照準はまっすぐこちら側に向けられている。

「わかりました、寿命を手に入れましょう。
 必ず寿命を回収します」

「おお! そう言ってくれると思っていたよ!!
 それでいくら欲しい? いくらならやってくれる?」

「5億」

「リーズナブルじゃないか! 今この場で渡そう!
 さあ、5億だ! 受け取ってくれ!」

金持ちは5億の小切手の俺の掌に押し付けた。
そして、俺はポケットに入れていた前の5億を取り出す。


「聞こえてるか、殺し屋。
 1億円で雇われたんだってな。
 ここに10億円ある。雇い主を殺せば10倍渡そう!」


「貴様なにをっ……!?」

その瞬間、金持ちの眉間を銃弾が貫いた。


太った巨体が地面につちぼこりを巻き上げて倒れると、
俺はその寿命を回収した。


「必ず回収するとは言った。
 でも、あんたに渡すとまでは約束してないよ」

金持ちの寿命をぱらぱらとめくってみた。
とても5億の価値はなさそうな日常ばかりだった。