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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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人間を一番怖がらせる妖怪へ

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「ぬらりひょんが辞任なされただとぉ!?」

妖怪界は天地をひっくり返すような大騒ぎ。

「どうして妖怪を辞任なさったんですか!?」

「聞けば、妖怪の女子へのセクハラだとか」
「それで支持率落ちたんだってよ」
「じゃ、次の妖怪代表はどうするんだよ」

ぬらりひょんがダサすぎる理由で辞任したことは
サッと忘れられて、次の妖怪代表を決めることに。

「ようし! それなら私に任せてほしいつら!」

真っ先に名乗り出たのはつらら女。
登場すると周りの気温をぐっと下げるので、
暑いこの時期は助かるが雰囲気から恐怖を盛り立ててくれる妖怪。

「なに言ってるズシ。ここはインパクト大のワシにまかせるズシ」

つるべ落としが真っ向から反論。

高い位置からいきなり叩き落ちてきて、
人間をびっくりさせるので妖怪内でもインパクトは1位。

「最初だけのインパクトでは妖怪を怖がってもらえないつら!」

「バカ! 最初こそが一番大事なんだズシ!」

人の恐怖は妖怪のエネルギー源。
それだけに、じわじわ怖がらせるか一気に怖がらせるか。
そのかじ取りはかなり大事なものとなる。

「HEY! お前ら2人とも根本的にまちがってるZE!」

「何言ってるつら!」
「あずき洗いに何がわかるズシ!」

妖怪DJことあずき洗いがやってきた。

「あなたはあずき洗ってるだつら。人を怖がらせることなんて……」

「わかってないNA。トラウマを植え付けてどうするんDA☆」

「どういうこと?」

「恐怖をコンスタントに回収するには、
 "トラウマにならない程度に気持ち悪い"くらいがいいんだYO。
 恐怖で逃げられたらどうしようもないZE」

「なるほど……」

あずき洗いの言っていることはもっともで、
あまり怖がらせすぎても引っ越されたりして恐怖は回収できない。

"気持ち悪い"くらいの感じを何度も味わせるのがベスト。

「ナメナメ! あーしもそれなら自信あるナメ!」

「アカ舐め……! いいだろう、
 どちらが人に不快感を与えられるか勝負だZE」

妖怪代表をかけて、あか舐めとあずき洗いの決戦がはじまった。




数時間後、二人はげっそりとして帰って来た。

「で、どっちが人に不快感を与えられたつら?」

「……ダメだったナメ」
「え?」

「あずき洗っても、今の人はみんなイヤホンつけてるから
 誰も聞こえやしないんだYO!
 誰一人として怖がってくれないんDA!」

「風呂のあかを舐めても喜ばれるだけで、
 怖がってくれることはないナメぇ……」

現代人とのギャップに妖怪たちは打ちのめされた。
もう完全な手詰まりとなった。

「もうだめナメ……。
 今の現代っ子に怖がらせすぎずにかつ
 じわじわ不快感を与えられるような妖怪はいないナメ……」

誰もがあきらめかけたそのとき。


「私にお任せください」


誰もみたことがない新人妖怪が名乗り出た。

「あんたは誰だYO」

「私は妖怪"靴のソールびちゃびちゃ"です。
 雨の日の靴のように、靴の中を濡らす妖怪です」

「なっ……なんだと……!?」

妖怪たちは戦慄した。
かつてここまで候補者にぴったりな妖怪はいただろうか。

「完璧つら! 恐怖を感じさせ過ぎずに、
 なおかつ最大級の不快感を与えることができるつら!!」

妖怪たちは満場一致で「ソールびちゃびちゃ」を推薦。
晴れて、ソールが妖怪代表となった。

「ソール頼んだぞーー」
「人間どもに妖怪の怖さを伝えてくれーー」
「そしてエネルギーを回収するのだーー」

「任せてください。靴の中がびちゃびちゃになって
 不快感を感じない人間などこの世にいませんから」


ソールは自信満々に人間界へとやってきた。
人間へ不快感を与えるために靴をびちゃびちゃにしていく。

「よし! これで人間から妖怪への不快感を回収し
 妖怪界のエネルギー問題も一気に解決だ!」


妖怪たちはまだ気づいていなかった。


靴が濡れていることで不快感は感じるけれど、
それを妖怪のしわざだとは誰も思わないことに……。