あなたもわたしも俺にな~れ
鎖を巻いた上着なんてどういうセンスだ! あほか!」
今日も上司から俺デザインの服を突き返される。
ファッションや装飾品が好きで、
自分でもデザインしたいと念願の会社に入るまではよかったが……
「もっとちゃんとしたのを作れ!
こんなキテレツな服じゃなくて!」
「でも先輩! これが個性なんじゃないですか!」
「知るか! 売れなきゃ意味ねぇよ!」
俺の作る服や装飾品はどれも前代未聞のデザイン。
それだけに一般ウケしないから会社でも立場がない。
「ただいま……」
「おかえり、ご飯できてるよ」
家に帰ると同棲している彼女が待っていた。
「ねぇ、聴いて? 私最近読書を始めたの!」
「読書? 本嫌いじゃなかったっけ」
「そうだけど、なんだか読みたくなって」
前までは読書する俺を根暗だと笑った彼女には珍しかった。
そもそも読書は俺の趣味だった。
この時はまだ「ああ、そうなんだ」くらいに流したが
徐々に彼女はエスカレートしていった。
「なんか最近、きんぴらごぼうがやたら好きなの」
「やっぱりお笑いバラエティ番組が最高ね」
「正直、人混みって苦手だわ」
洋食好きな彼女が和食を食べだし、
ニュースくらいしか見なかったのにバラエティ番組を見、
社交的だった彼女がインドアになっていった。
鈍い俺でもさすがに気付いた。
「な、なぁ、どうして俺の趣味をマネするんだ?」
「マネ? マネなんてして何の得があるの?
私は私の好きなことをしているだけよ」
自覚症状はない。
いったいなんだろうか。
もしかして、精神病の一種だとか……?
怖くなった俺は、まず病院で自分を診察してもらった。
「ははぁ、それは"自分感染症"ですな」
「えっ?」
「自分が周りに感染してしまうんですよ。
ペットが飼い主に似るとかあるでしょう? あんな感じです」
「治せますか」
「ムリ☆」
まあ、趣味や趣向が似てくれば話も合うだろうし
問題はないだろうと思っていた。
その日の帰り、久しぶりに飲み会に参加した。
「みんな久しぶりだな。最近は何してるの?」
「読書だな」
「読書だ」
「読書かな」
「えっ」
まるで俺みたいなことを答えた。
「最近、家を出たくなくってよ」
「わかるわかる、人混みとか面倒だよな」
「すみません、きんぴらごぼう追加~~」
「まさか……俺が感染してる……!?」
俺の感染力はさらにエスカレートしている。
つまり俺の病気が進行していることを示していた。
聞きたかった友達の恋愛事情も、
参考にしたかった仕事の話ももう聞けない。
すべて"俺"になってしまったから。
「ま、まずい! なんとかしなくちゃ!」
とはいえ病院でも治す方法はないとのこと。
であれば、"人にうつせば早く治る"という風邪にならって
とにかくいろんな人に会いに行くことにした。
微量感染を繰り返して分散させちゃえば、
勝手に消えてくれるだろう。
が、そんなことはなかった。
『それでは今日のニュースはおすすめ読書について』
『今話題のきんぴらごぼう専門店に来ました~~』
『嫌な人混みを避けるとっておきの秘密です!』
テレビはどれも俺好みの内容ばかり放送している。
まるで、好物の料理を休みなく提供されている気分だ。
「みんな……みんなうつっちまったのか……」
感染者から感染者へとねずみ算式に増えた"俺感染"。
もうほとんどの人が俺の特徴を受け継いでいた。
コンビニ行っても、すべて俺が好きなものが陳列されてる。
どこへ行っても俺好み。
それだけに新しいものや、別の考え方と触れ合うことはなくなった。
「まあ……みんな同じような考え方になるわけだし、
悪くはないのかも……」
家で悩んでいると彼女がやってきた。
「どうしたの? さっきから悩んでいるみたいだけど。
また仕事で失敗したの?」
「いやそうじゃなくて、新しいインスピレーションが……わぁ!!」
思わずスッ転んだ。
彼女の顔が俺そっくりになっている。
「か、か、顔……! 顔が……!」
「顔?」
彼女は鏡に映る自分の顔をチェックする。
「なにも変じゃないけど? どうしたの?」
「うそだろ……感染するのは性格だけじゃないのか!?」
町に出ると、その風景に凍り付いた。
みんな俺と同じ顔をしている。
背丈まで一緒だ。
この中に俺が紛れてしまえば最後、絶対に見つかりっこない。
「なんてことだ……俺はもうだめだ……」
自分の喪失。
みんなが俺になることで、俺の特徴はなくなった。
他人との違いの無い世界で"俺"はもういなくなった。
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1年後、上司となった俺のデザインを見て
先輩はもみ手をしながらほめたたえる。
「いやぁーー! やっぱり素晴らしいデザインです!
襟をドクロにしたんですね! 斬新! さすが先生!」
「だろ?」
「誰もが個性を主張したがるようになって
先生の奇抜な服がバカ売れするよりも前に
私は先生の才能に気付いていましたとも!」
俺とまったく同じ顔をした先輩は言った。
病気は治らないし、世界は俺まみれになったけど。
「これはこれで……い、いいのか?」
俺の服は互いを区別するためのものとして、
ギネスに乗るほどの大ヒットとなった。
作品名:あなたもわたしも俺にな~れ 作家名:かなりえずき