残り10分で捕まえてみろやぁぁぁぁ!!!
夜の学校に事務的な電子音が鳴った。
ピピピッ。
耳を澄まして、他の電子音との距離を測る。
「大丈夫か。近くには誰もいない」
とはいえ、鬼が俺の音に気が付いて近づくかもしれない。
俺は教室を出て理科室へと隠れる場所を変えた。
人目を避けるようにして過ごした日は長い。
隠れることに関しては絶対の自信がある。
今回の『学校かくれんぼ』でも隠れ抜いて賞金を手に入れてやる。
それから1時間。
ピピピッ。
ふたたび電子音が鳴る。
今度は少し近くから同じ電子音が聞こえた。
「まずいな。近くに誰かいる。
鬼じゃなければいいけど、離れたほうがいいな」
鬼を含めた参加者に配られる電子アラーム。
1時間ごとに必ず音が出るように仕組まれている。
学校外の敷地に出ればアラームがけたたましく鳴る。
まさにかくれんぼの大敵。
今度は理科室から放送室へと移動した。
俺はなんとしても隠れ切って賞金が欲しい。
今の苦しい生活のたしにしたい。
「残り3時間、か……」
この学校かくれんぼは鬼よりも隠れる側のが有利。
広大な校内には隠れる場所なんていくらでもある。
運が悪くアラーム音の近くに鬼が来ていれば捕まるが。
けれど、俺にかぎってそれはない。
放送室に入るには体育館を経由する必要があり、
その出入り口にはバスケットボールを置いてある。
扉の開閉があればボールが動いて誰かの侵入を気付かせる。
「ふふ……悪いが、こちとら素人じゃないんでねぇ」
隠れつつも周りを警戒する。
それが超一流の隠れマイスターなのだ。
ピピピ。
残り2時間。
俺は順調に見つかっていない。あまりに順調すぎる。
「どういうことだ? 全然鬼の動きを感じないぞ?」
それが鬼の作戦なのかもしれないが、あまりに探す気配がない。
残り時間わずかで全員を捕まえることなんてできないから、
コツコツ探していくしかないのに。
「ま、まさか……! 最初から鬼はいないパターンか!?」
探すだけの鬼役は存在しない。
隠れながらも鬼となる覆面鬼がいるかもしれない。
「ふふ、そういうことか。
常に動き回っている誰かがいると思っていたが、そうじゃない。
本当の鬼は隠れる側にまぎれて捕まえる気なのか!」
そうと決まればやることはひとつ。
他の参加者を見つけることだ。
ピピピ。
残り1時間。
まもなく、ほかの参加者を見つけることができた。
わかりやすく掃除用具入れに隠れていた。
もちろん、相手には俺の存在は気付かれていない。
「隠れる場所に芸がなさすぎるから、
掃除用具に隠れようとした奴を捕まえるつもりか
はたまた、純粋に隠れていたのか」
どちらにせよ、俺はこいつについていく。
こいつが鬼だったら、背後にいる俺は一番安全だ。
鬼じゃなかったとしても隠れるスキルは俺の方が上なので
こいつを囮にして逃げることができる。
「完璧だ……! 絶対に見つかるわけがない……!」
時間はどんどん過ぎていく。
残り30分。
残り20分。
残り10分。
――俺は勝利を確信した。
「この残り時間で俺たちを捕まえることは不可能!
勝った! これで賞金は俺のものだ!」
・
・
・
『今夜のニュースです。
さきほど、夜の校舎に隠れていた指名手配中の犯人たちを
市民からの通報により一斉検挙することができました』
時間をかけて用意された大量の警察隊が校舎に入り、
10分以内に隠れている奴らは捕まった。
「通報ありがとうございました。
こちら、捜査協力の報酬となります」
「ありがとうございます」
男は警官から賞金を受け取った。
校舎で捕まえたやつらは、誰もが悪い奴だった。
「しかし、あんな夜の校舎であなたは何をしてたんですか?」
「オニをやってました」
男はパトカーにのせられたかくれんぼ参加者の肩に触れては、
「見つけた」と順番に声をかけていった。
作品名:残り10分で捕まえてみろやぁぁぁぁ!!! 作家名:かなりえずき