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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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ギタリストに1輪のバラを 第2回 メンバーのお見舞い

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 ヒサトが最初にバラ園の夢を見てからちょうど2週間たった日のことだった。タクヤが外出から帰ってきたとき、ヒサトを見ると、彼はうつろな目で浅く早い呼吸をしていた。タクヤは声をかけた。
「おいヒサト!大丈夫か」
 ヒサトは目を大きく開き、か細い声で
「タ…タクヤ…」
 と言った。
「苦しいのか」
 ヒサトは軽く2度うなずいた。
「僕……僕もう…だめかも……本当に迷惑を掛けたね…」
 彼の力のない声に、タクヤはいつになく厳しい口調で言った。
「そんなことを言うな。今、救急車呼ぶからな」
 そして、落ち着いた様子で救急に電話をした。電話を終えると、タクヤはヒサトの掛け布団をめくり、ヒサトのパステルグリーンのパジャマのボタンを三つほどはずした。ヒサトは、何すんだよ、と言いたそうな目でタクヤを見て、その名前を呼んだ。
「呼吸が苦しくないようにしてるんだ」
 タクヤは、ヒサトを安心させようと、静かに、しかし強く言った。ヒサトは、
「ああ…」
 と言って、一度軽くうなずいた。


 ヒサトが救急搬送されたという知らせを受け、DEAR PEARLのヴォーカルの神戸テルユキ、ベースのペドラ城(彼女は日本人とベネズエラ人のハーフ)、ドラムの大石ヒロミツが搬送先の病院に駆け付けた。幸い、ヒサトの命に別状はなかったが、1週間ほどの入院が必要とのことだった。そこでメンバーは交代で彼の面倒を見ることにした。

 ペドラが病室を訪れたある日、彼女は自分のいるバンドのコピー元の某有名ロックバンドのかなり古いバラードナンバーをハミングしながら、グリーン系の色のビーズを使って見事なグラデーションのブレスレットをこしらえると、ヒサトの腕に丁寧にはめた。彼はほのかに頬を赤くして女性ベーシストを見つめた。彼女は困ったような笑みを見せると、
「誤解しないで。これはお守りみたいなもので、別に男女の感情を持って作ったわけじゃないのよ」
 と少しそっけなく言った。ヒサトのほうは、満面の笑みで
「う・・・うれしくないぞっ」
 と返した。彼のリアクションを見ても、ペドラは不快な顔をしなかった。彼はうれしいことがあると口が悪くなるが、表情は自分の気持ちに正直なのだ。


 ヒロミツが病室を訪れた日、彼は不謹慎にも病室内で大好物の焼きそばパンを食べていて、その食べかけをヒサトの前に差し出し、
「食うか?」
 と聞いた。無論、ヒサトの答えは
「要らない」
 というやり取りがあった。そのうえ、ヒロミツが振ってくる話のネタは音楽よりもどこそこの焼きそばパンがうまいうんぬんというもので、会話が終わった頃には、ヒサトは眠り込んでしまった。自分の振った話題が面白くなかったことは気に止めず、焼きそばパン愛好症のドラマーはベッドで眠るヒサトを見ると、穏やかな顔で
(こいつ、寝ちょる顔がかわいいけんのう)
 と心の中で言った。

 (ヒサト、おぬしは今、どげんな夢見ちょるん)
 心の中でヒロミツがヒサトにそう語りかけたとき、彼は目を閉じたまま、答えるように言った。
「ああ、きれいなバラが見える…」
 この発言に、ヒロミツからさあっと血の気が引いた。こいつは、こいつは「向こう」に行こうとしちょるんと違うか。そう思った彼は、乱暴にヒサトの肩を揺さぶった。
「おいヒサト、起きんさい!」
 ヒサトは突然眠りを覚まされ、目を閉じたまま眉間にしわを寄せたあと、迷惑そうに目を開いた。彼の目に映ったのはやや青ざめた顔をしたドラマーだった。
「よかった、生きちょったんじゃけんな…」
 ヒロミツの安堵の言葉にもかかわらず、ヒサトは
「起こすなよ…」
 と不機嫌そうに言うと、布団を掛け直した。それから20秒ほどして再び眠りに落ちた。


 テルユキがお見舞いに行った日には、珍しくヒサトから話題を振ってきた。
「ねえテルユキ、僕は死んだらどうなるのかな」
 28歳のヴォーカリストは寂しげに彼を見たが、ふっと軽い笑みを見せた。
「おまえのような人なら、天国へ行ける。俺はそんな気がする」
 ヒサトは、テルユキのうれしい返答を聞いてうっすら笑った。
「それじゃさ、天国にはどうやって行くんだろ」
(おいっ!)
 テルユキは心の中で突っ込んだが、彼の質問に答えた。
「う〜ん、俺は行ったことないからわかんないけど、多分、天使か何かが迎えに来るようなイメージじゃないか?」
「へえ、気持ちよさそうだな、それ」
 ヒサトの声を聞いて、テルユキは苦笑しながら言った。
「死ぬのが怖くなくなるのはいいけどな、生きる希望を持つことはもっと大事だぜ?」